最初は市販の鍬を買ってみた。しかし、自然薯の掘りっぱなしの穴にはまってズボンの股を裂いた穴は分かるが、掘ったことのない者にとって、どういう風に鍬を使ってあのような穴を掘ればいいのか?皆目見当が付かない。掘るといっても、鍬は、少しRがかかっていて15センチ位の幅で40センチ位の長さの鉄の板に2メートル近い木の柄が付いているだけである。スコップの形とは程遠いし、どうやって穴を掘るのか分からない。そこで、物干し竿としてしばらくは使用していた。
余談になるが、スコップで掘っている人に出会ったことがある。その人は1日1本掘れればいいと思っているそうで、ゆっくりと自分の体全体が入って掘り進められるだけの大きな穴を掘っていた。当然深く掘るので、階段をつけてのんびりやっていた。そういう人もいるのだと、変に感心したこともあった。掘り方、考え方も人それぞれである。
ならば、市販の穴掘り器?のほうが簡単に穴が掘れそうなので、購入して使ってみた。円筒を縦に2分割したようなヤツだ。しかし穴は掘れるが穴の大きさを大きくするには厄介だ。自然薯を傷つけ折ってしまう心配が大である。実際にやってみて、これだけではとても自然薯に沿って掘っていくことなどできないと観念した。穴は掘れるが、自然薯に沿って土を削るもうひとつの道具が必要だと痛感した。
そこへ知人の紹介で、掘れる人と知り合いになった。彼は見ている前で、鍬1本で、ものの見事に簡単に?掘りあげた。『学ぶとはまねぶ事だ』などと変に納得してさっそくまねしてみる。市販の鍬の物干し竿使用をやめて、本来の鍬として使用してみたが、そうははじめからうまくいくはずがない。素人の目から見て、簡単に見える事ほど、熟練されたノウハウがあることは仕事柄良く分かっている。あとは経験(場数を踏んで)して会得するしかない。
はじめは自然薯を切りたくないと思う気持ちが強い。切ってしまったら大変だという思いが先立って、慎重になりすぎて首の近くの土を突けない。その状態で下に掘っていくから、もし手前に曲がっていると切ってしまうことになる。だから首の周りの土を突いて首を出しながら少しずつ掘り進めたほうが早い。子供たちも時々引き込んで、毎年、冬の雑木林に通い、探し方や掘り方を教えた。
鍬は鍛冶屋さんに作ってもらった。現在は、刃先に軽自動車の車輪近くのスプリングを巻き、全体に少しRを付けた平らなものと、半円筒にしたものとの2本使用している。長さや幅は市販のものを参考にした。2本の鍬とも1メートル程の鉄パイプを溶接し、雌ネジを付けてある。そして片方を塞いだ1メートル程の鉄パイプに雄ネジを付け繋げると2メートル程になるようにしてもらった。平らなほうは直径が5センチぐらいの木の根っこだったら、突き切ってしまうほど良く切れる。また、分解できるから車のトランクにしまっておくのに好都合である。何年かかけて、改良を重ね、何種類か作ってもらったが、鍬の肉厚の薄いもののほうが食い込みが良く、使いやすいことが分かった。形もシンプルイズベストといったところか。
その鍛冶屋さんも後継者がいなくて、代も途絶えてしまうそうだ。さびしい限りである。世界にたったひとつしか無い、鍛冶屋さん手作りの鍬を、子供たちに1本ずつ自分の遺産として残すつもりだ。人生で悩んだら掘りに行けとメッセージをつけて。
また、自然薯を掘っている途中で折ってしまった場合、深くて手が届かない。そこで、ほかの道具として、市販の、消し墨などを掴んで捕る時などに使用するステンレス製のハサミを2本繋げて、1メートル程にしたヤツも作ってもらった。あとはナタである。これも蔓を引っ掛けて手前に引いて切れ、突いても切れるような形に注文して作ってもらった。ケースをベニア板で作り、いつも腰に紐でつるして雑木林に突入する。
掘る時期も、人が掘れなくなる1月から3月までにしている。自然薯堀を始めたころは、蔓が地面とつながっている時期に掘りに行った。しかし、顔を蚊に刺されながら、大汗をかいて掘ることになる。深みにはまってくると、蚊もいないし、葉も落ちて誰も来ない時期にヒゲから探して掘ったほうが面白い。のんびり出来て見つける楽しみも倍加する。群生したところだと1メートル位の間隔で何本も見つかる。あまり動かなくて済むから効率も良い。寒い北風が吹く日も、雑木林の中は防風林に囲まれているようで意外と暖かい。雪が降った後も雪を掻き分けてヒゲで掘ったこともある。
余談になるが、自然薯が世間で市場に出回る時期は12月で、その時期に高値で取引される。しかし真のうまさはその後だと思う。実際に2月に、人のつてで、中央卸売市場に卸してみたが、時期はずれだからと言う理由で、安値で引き取られてしまった。おいしさと値段は季節感でズレがあると思った。寒鮒の甘露煮も、冬の終わりの産卵直前で、おなかがパンパンのヤツが一番おいしいはずだ。
2005年12月4日(日)
【参照先不明】

