認知症の地主に苗木を切られてしまった

出典:マイナビ農業

 

「土地を貸したのを忘れていた」と

 昨年、都心からある農村部に移住就農しました。
 研修中、すぐに農地を借り受けることができたのですが、その地主さんは少々認知症の気のある方でした。当時は少し引っかかる部分はありつつも、「ご年齢もご年齢だし、忘れっぽい方なのかな?」くらいにしか思っていませんでした。

 ところが、農地を借りてまもなく果樹の苗木を定植したところ、ほどなくしてほとんどの苗木が切られてしまったのです。近隣の方の話によると、地主さんが「なぜ俺の畑に木が生えているんだ」と言いながら刈り取りをしていたとのこと。本人に事情を聴くと、「農地を貸していたことを忘れていた」ということでした。
 苗木が切られてしまったとあっては、とても農業を始めるどころではありません。離農しようと考えているのですが、苗木の弁償のほか、農地の整備にかかった費用負担などを求めることはできるものでしょうか。

弁護士の見解

A 地主さん又は地主さんの介護を行っているような一定の人物に対して、苗木の弁償など一定の範囲で損害の賠償を求めることができます。

— 加害者が認知症である場合 —

 本事例のように、地主さんが故意にご質問者様の苗木を刈り取ってしまい、一定の損害を与えた場合、地主さんは民法709条に基づいて、ご質問者様へ与えた損害を賠償しなければならない義務を負います。そして、ここでいう損害には、刈り取ってしまった苗木だけでなく、場合によっては、農地の整備にかかった費用や、農業を行っていれば将来得ることができたと考えられる金銭についても一定の範囲で含まれることとなります。ここまでが、法律が予定している原則的な結論となります。

 ところが、本事例では、地主さんは認知症である可能性があり、苗木を刈り取った際には、「農地を貸していたことを忘れていた」状態であったとされています。この場合、地主さんは、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」であった可能性があります。そして、民法713条は、このような例外的な場合について規定しており、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」である人間が他人に損害を与えたとしても、損害の賠償の責任を負わないと規定しています。従って、地主さんが認知症により自己の行為の責任を理解できない状態であった場合、ご質問者様は地主さんに前述の損害の賠償を請求することができないこととなります。

 それでは、このような例外的な場合では、ご質問者様は誰にも損害賠償を請求することができないのでしょうか。
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