赤色視は、ヒトを含む脊椎動物だけでなく一部の昆虫にも存在します。この赤色視を担う赤オプシンは、脊椎動物と無脊椎動物で独立に進化してきたことが知られています。しかし、無脊椎動物における仕組みは技術的な難しさから十分に解明されていませんでした。
大阪公立大学大学院理学研究科の小柳 光正教授、寺北 明久教授、佐藤 龍大学院生の研究グループは、昆虫の中でも特に多くのオプシン遺伝子を持つトンボに着目し、トンボの赤色視を担うオプシンを同定しました。
その一部を人工的に改変して解析した結果、トンボの赤オプシンが赤色光を感知する仕組みは、ヒトを含む哺乳類の赤オプシンと共通していることが明らかになりました。さらにサナエトンボ科のトンボは、ヒトには見えない近赤外光を感知できることが分かりました。
この近赤外オプシンを改良した結果、さらに長波長側に感受性をシフトさせることにも成功しました。改良型の近赤外オプシンは、近赤外光によって細胞応答を誘導することも確認できました。本研究成果は、生体深部で機能する新たな光遺伝学※3ツールとなる可能性を示しており、生命科学や脳科学への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年1月20日に国際学術誌「Cellular and Molecular Life Sciences」にオンライン掲載されました。
トンボは童謡にも歌われるほど馴染みのある昆虫ですが、その色覚やそれを支える分子基盤にはまだ多くの謎が残されています。
今回、その仕組みの一端を明らかにできたことを大変うれしく思います。トンボを含めた無脊椎動物のオプシンは未だ研究が十分とは言えず、新たな発見の可能性がある領域のため、これからも研究に励んでいきたいと思います。
本研究成果によって、動物が赤色や長波長の光を感じ取る仕組みに新しい知見を加えることができました。これは単に「トンボがどうやって赤色を見るか」という問いに答えるだけではなく、異なる動物系統がどのように色を見る能力を得てきたのかという進化過程の一端を明らかにする成果です。 今後は、他の昆虫や無脊椎動物のオプシンにおいても光を感じる仕組みを調べることで、動物界全体における色覚の多様性や進化の過程をより深く理解することができると期待されます。
また、他のトンボには見られないサナエトンボ科特有の近赤外オプシンの発見は、サナエトンボ科のトンボの生態を理解する上でも重要な成果です。今後は、本研究で提唱した「オス・メスの識別」を含めて、行動学的および生態学的な検証が必要です。それにより、近赤外光感知の生物学的な意義を明らかにできれば、生物の感覚の拡張と環境適応の関係について、新しい概念をもたらすことが期待されます。
さらに、オプシンが光を感知する仕組みを深く理解することで、より高性能な光遺伝学ツールをデザインすることが可能になり、革新的な技術応用へとつながる可能性が考えられます。
出典:ナゾロジー

