「調味料を最後の一滴まで使うため、ボトルを傾けたまま少しイライラして待つ」なんてことがあるのではないでしょうか。
牛乳や料理油、シロップの容器を逆さにしても、最後のほうだけ妙にしぶとく残ります。
この身近な現象を調べたのが、米ブラウン大学(Brown University)の物理学者たちです。
彼らは、容器の内側に残る薄い液体の膜がどれくらいの時間で流れ落ちるのかを、流体力学の計算と実験で調べました。
研究成果は2026年3月3日付の『Physics of Fluids』に掲載されました。
この研究の出発点は、研究者たち自身の台所での疑問でした。
ある研究者の祖母が瓶や容器から最後の一滴まで出そうとしていた姿を思い出し、別の研究者は洗ったあとの中華鍋の水切り方法を気にしていました。
そこで彼らが注目したのは、表面に広がる薄い液体の膜です。
容器を傾けても液体が一気に全部落ちるわけではなく、内側の壁面には薄く広がった液体が残ります。
この薄膜が重力でゆっくり流れていくため、「最後の一滴」がなかなか落ちてこないのです。
研究では、このような液体の動きを流体の基本法則を使って計算し、薄い液体の膜が流れ落ちるまでにどれくらい時間がかかるのかを見積もりました。
また実験では、45度に傾けた板の上に液体を流し、表面に薄膜として残った液体のうち90%が流れ落ちるまでの時間を測定しました。
流れ落ちた液体の重さを量ることで、どこまで排出できたかを確かめています。
その結果はかなり分かりやすく、粘り気の小さい水では数秒、牛乳では約30秒で90%が落ちました。
一方、オリーブオイルでは90%の回収に9分以上かかり、冷たいメープルシロップでは数時間かかる場合もあると見積もられました。
現実にはボトルから「最後の一滴」が出るのをいつまでも待つ人はいないでしょう。
それでもある程度しっかりと使い切りたいなら、かなりの時間、辛抱強く待つ必要があるのです。
研究者たちがもう一つ調べたのは、中華鍋を洗ったあとの水切りです。
ある研究者は、鍋を布で拭いて乾かすと、こびりつきを防ぐ油の層を落としてしまうおそれがあるため、別の方法を使っていました。
まず水を捨て、そのあと少し待って、底に集まった水をもう一度捨てるというやり方です。
この方法のポイントは、待つ時間です。
短すぎると、内側に残った薄い水膜がまだ十分に底へ集まっていません。
逆に長く放置しすぎると、水が蒸発するあいだに鍋が錆びやすくなります。
そこで研究チームは、流体力学の式を使ったコンピューターシミュレーションで、水膜がどう動くかを計算し、再び水を捨てるまでの最適な待ち時間を見積もりました。
その結果、最適な待ち時間は約15分でした。
研究者はふだん1〜2分ほどしか待っていなかったため、この結果に驚いたと語っています。
経験的にやっていた「二度捨て」は方向としては正しかったものの、物理学的に見ると、もっと辛抱強く待つ必要があったわけです。
今回の研究がおもしろいのは、台所のちょっとした面倒くささが、きちんと数式と実験で説明されたことです。
調味料の最後の一滴が出にくいのも、中華鍋の水切りにコツがあるのも、どちらも薄い液体の膜の流れが関わっていました。
「もし、明日の朝にパンケーキを食べる予定なら、残り少ないメープルシロップの瓶は前の晩から逆さにしておいたほうがいい」
そんな半分冗談のような助言が、今回は案外まじめな物理学の結論になっているのです。
出典:ナゾロジー

