マルハナバチの女王が「水中でも生存できる秘密」

 マルハナバチは巣を地面の中につくることで知られます。

 しかしそのせいか、突然の大雨などに見舞われると、巣が水没することがあるのです。

 普通に考えれば、女王も含めて全滅すると思われるでしょう。

 ところが、2024年の研究で、マルハナバチの女王は水中に沈んでも生き延びられることが発見されていました。

 その一方で、なぜ水中でも生存できるのか、その仕組みまではわかっていませんでした。

 そんな中、カナダ・オタワ大学(University of Ottawa)の最新研究で、マルハナバチの女王が水中で呼吸を続けられることを新発見したのです。


 マルハナバチの社会では、冬を越して生き残るのは新たに即位した女王だけです。

 秋になると新しい女王は土の中に潜り込み、春まで休眠状態に入ります。

 この状態は「ディアポーズ(休眠)」と呼ばれ、発育や代謝が大きく低下します。

 しかし地下の巣は、新女王にとって必ずしも安全ではありません。

 大雨や雪解け、地下水の上昇によって巣穴が水没する可能性があるからです。

 休眠中のハチは活動が非常に鈍く、突然の洪水から逃げ出すことはほぼ不可能です。もし水に沈めば、多くの昆虫は短時間で溺れてしまいます。

 ところが北米に生息するマルハナバチの一種「ボンブス・インパティエンス(Bombus impatiens)」の女王は、最大1週間以上水中に沈んでも約90%が生存することが報告されていました。

 しかし、なぜそれが可能なのかは長く謎でした。


 チームは健康なコロニーから女王を採取し、低温で暗い環境に置いて人工的に休眠状態を作りました。

 その後、女王を密閉された測定チャンバーに入れ、水を満たして完全に水中に沈める実験を実施。水没時間は数時間から最長8日間です。

 チームはその間、ハチの体から出入りする気体を測定しました。特に注目したのは、呼吸の指標となる「二酸化炭素(CO₂)」です。

 すると驚くべきことが分かりました。

 水中に沈められている間も、女王は少量ながら二酸化炭素を放出し続けていたのです。

 さらに水中の溶存酸素量はわずかに減少していました。これはハチが水から酸素を取り込んでいることを意味します。

 つまり女王は、完全に水没していても水中で呼吸を続けていたのです。

 ただし呼吸量は通常より大幅に少なく、体の代謝も大きく低下していました。


 研究の結果、女王が水没に耐えられる理由は主に3つの仕組みの組み合わせであることが分かりました。

 1つ目は水中呼吸です。女王は周囲の水から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出していました。

 2つ目は嫌気代謝です。酸素が不足すると、細胞は酸素を使わずにエネルギーを作る代謝に切り替えます。

 この過程では乳酸が生成されます。実際に実験では、水没した女王の体内で乳酸の蓄積が確認されました。

 3つ目は極端な代謝低下です。

 休眠中の女王はもともと代謝が大きく抑えられていますが、水没するとそれがさらに低下します。

 実験では、体重1グラムあたりのCO₂排出量が大幅に減少し、エネルギー消費が最低レベルまで落ちていました。

 このように

  • 水からわずかな酸素を取り込む
  • 不足分を嫌気代謝で補う
  • 代謝を極限まで下げる

 という三重の戦略によって、女王は長期間の水没にも耐えられるのです。

 なお、女王がどのような構造で水中呼吸を行っているのかについてはまだ完全には解明できていません。

 体表に薄い空気層を保持してガス交換を行う「物理的エラ」の可能性が指摘されていますが、確証は今後の研究を待つ必要があります。

 
出典:ナゾロジー