女王蜂は農薬を「卵」に押し付けて生き延びると判明


 働きバチは農薬を防ぐ「生きたフィルター」だった
 ミツバチの巣は、単なる昆虫の集まりではありません。

 女王バチは卵を産み、働きバチは餌集め、育児、巣作り、女王への給餌などを分担しています。

 そのため、働きバチが農薬のついた花粉や蜜を持ち帰った場合、その農薬は巣の中で餌やワックス、働きバチ、女王、卵へと広がる可能性があります。

 これまでミツバチの毒性研究では、主に働きバチがどれくらい農薬で影響を受けるかが調べられてきました。

 しかし本当に重要なのは、農薬が巣の中でどこへ移動し、群れ全体にどんな影響を与えるかです。

 そこで研究チームは、女王バチ1匹と働きバチ約60匹からなる小型の「ナノコロニー」を作り、巣の内部で起こる農薬の移動を追跡しました。

 使われたのは、モデル農薬のメチルパラチオンです。

 これに低レベルの放射性標識を付け、BioAMSという高感度な方法で、農薬がどの組織や巣材に移ったかを調べました。

 この方法により、女王の卵や卵巣のような非常に小さなサンプルでも、農薬の移動を検出できました。

 実験の結果、まず働きバチが強力な防御役になっていることが分かりました。

 農薬入りの餌が巣房に蓄えられるまでに、2日目には農薬濃度が95%低下していたのです。

 ただし10日目には低下率が86%になり、慢性的な曝露によって働きバチのフィルター能力が弱まっている可能性も示されました。

 つまり、働きバチは農薬を完全に消していたというより、餌の中の濃度を下げ、巣材や自分たちの体へ分配することで、女王や卵に届く量を抑えていたと考えられます。

 では、慢性的な曝露によってこの防御力が弱まり始めると、農薬はどこへ向かうのでしょうか。

女王を守るため、農薬の一部は卵へ移っていた

 詳しく調べると、女王バチは働きバチに比べて、体内の農薬量をかなり低く保っていました。

 10日目には、働きバチの農薬蓄積量が女王バチの約55倍に達していました。

 これは、働きバチが餌を処理し、女王に届く農薬を減らしているためだと考えられます。

 女王バチは外へ採餌に行かず、働きバチからローヤルゼリーを与えられるため、直接的な曝露も少なくなります。

 しかし女王は完全に無傷だったわけではありません。

 慢性的な曝露が続くと、女王の体にも農薬が入り、さらにその一部が卵へ移っていました。

 10日目には、卵の農薬濃度が女王バチ本体の5〜10倍に達していたと報告されています。

 親の体内にある汚染物質が卵へ移る現象が確認されたのです。

 研究チームは、卵での農薬蓄積速度が女王本体より10倍以上高かったことから、農薬がただ流れ込んだだけでなく、卵の形成過程で集まりやすくなっていた可能性を指摘しています。

 これは女王にとっては、自分の体内負担を下げる手段になるかもしれません。

 しかし卵にとっては、発達へのリスクが高まる可能性があります。

 今回の研究では、農薬を受け取った卵がその後きちんと孵化するのか、幼虫として正常に育つのかまでは追跡してません。

 現時点で言えるのは、慢性的な農薬曝露のもとで、女王バチの体内負担の一部が卵へ移っていたということです。

 さらに、女王の存在そのものが、巣全体の農薬分布を変える可能性も示されました。

 女王がいるコロニーでは、農薬の総量が大きく増えたわけではない一方で、働きバチやワックスなど、農薬がたまる場所の分布が変化していたのです。

 この研究は、ミツバチの巣では、女王、働きバチ、卵、巣材がつながった1つの防御システムとして働いていることを示しました。

 最終手段としては、女王と群れの未来を守るために、農薬の負担を卵へ移す可能性もあるようです。

 
出典:ナゾロジー