出典:現代農業Web
多品種接ぎ木で、楽しみすぎ果樹
結婚して60坪ほどの土地を入手したのを機に、植える果物の種類が徐々に増えました。最初は、私が小学生のころに岩手の実家で植えていたスモモやカキ、リンゴなどを育てていましたが、比較的寒い秩父市でのミカン栽培を見て、カンキツ類にも手を出すようになりました。義理の父が使用していた小さな温室が空いたので、アボカドやライチ、南国のリンゴと呼ばれるホワイトサポテなども植え、樹種と品種が急激に増えてしまいました。現在、550品種ほどをたいして広くない土地で育てています。当然、1本の樹に多品種を接ぎ木しています。
多品種接ぎのメリット
狭い土地でたくさんの品種を楽しめるほかにも、多品種接ぎには以下のようなメリットがあります。
一つは、受粉樹も省スペースで育てられること。受粉時以外は必要のないキウイの雄木などを枝の一部に接いでおくことで、スペースが有効に使えます)。二つめに、品種特性を早期に確認できること。成木に接ぎ木するので、新しく入手した品種や実生品種も1、2年で着果させられ、味や形を確認できます。三つめに、1本で長期収穫が可能なこと。多品種接ぎの樹を1本植えておけば、手軽に長く収穫を楽しめます。例えば、カンキツはスダチが8月、極早生ミカンが9月に収穫可能で、毎月別の品種が食べごろとなり、翌年8月のヒョウカンまで一年中味わえます。ブドウは7月末の「ヒムロットシードレス」から始まり、12月初旬の「ウルバナ」まで間断なく収穫可能。スモモやプルーンは6月から10月、カキは9月末から12月初旬まで楽しめます。
一方、害虫が出て薬剤をかけたときに、同じ樹のなかでも薬害の発生する品種があったり、穂木から台木に感染する「高接ぎ病」によって樹全体が枯れるリスクもあります(本誌p89)。また、品種ごとの枝管理が少々複雑となるのも難点でしょうか。
春でもできる「宮式芽接ぎ」
接ぎ木の方法は、切り接ぎ、割り接ぎ、腹接ぎ、芽接ぎなど各種やっていますが、少し変わった方法も実践しています。私の苗字をとって「宮式芽接ぎ」と呼んでいます。
一般的な芽接ぎは、台木の樹皮にT字の切れ目を入れて剥ぎ、そこに穂木を差し込みます(現代農業2022年4月号p88)。養水分の流動が活発で皮剥ぎしやすい夏から秋が適期ですが、春でもできる方法を工夫しました。
下の写真のように台形に削った穂木を台木にはめ込み、芽の部分を残して接ぎ木テープを巻くのです。T字芽接ぎと同じように外気への露出が芽だけとなり、完全密封にかなり近づきます。これで穂木の乾燥による失敗を防ぎます。
近年は、パラフィン系テープの「ニューメデール」が出て、簡単に穂木を完全密封できるようになりましたが、安価な接ぎ木テープのみを使う場合におすすめです。
芽接ぎは下の写真のように、1本の枝に連続的に何カ所も接ぎ木できます。私の場合、購入した棒苗の途中に数品種接いだり、長い枝に実生品種(性質がそれぞれバラバラ)を続けざまにたくさん接いで、それぞれの特性を確認するときなどに、この方法を活用しています。
宮式芽接ぎのやり方
モモの枝で実演。一般的なT字芽接ぎと違って皮を剥がない。樹液流動の少ない春でもできる。
モモは葉芽と花芽が隣り合ってついているので、まず指先で花芽だけを取り除く。
1芽残して小さく切った穂木を半分に割く。
両端を削って台形型にする。
台木を削って穂木と合わせる。
穂木の長さに台木を削り、両端に切り込みを入れる。
台木の切り込みに穂木を差し込む。切り接ぎと違い、1本の枝に連続的に接げる。
芽の部分だけを残して接ぎ木テープをまく。念のため、芽の部分のみニューメデールで覆ってもよい。