収益で緑化負担減へ
都内有数のビジネス街・大手町(千代田区)にあるオフィスビルの屋上で、ワイン用のブドウを栽培する珍しい取り組みが行われている。栽培2年目だった昨年は、数本ながらワイン醸造にも成功。収益にもつながりうる屋上緑化の新しい形として、関係者の期待が高まっている。(石坂麻子)
3月12日、千代田区大手町の「大手町ビル」(地上9階建て)屋上で、竹中工務店の蓑茂雄二郎さん(42)がブドウの生育状況を確認していた。このブドウは、同社が同ビルを運営管理する三菱地所の委託を受けて実証実験として栽培している。今年の収穫量は昨年の2倍となる約10キロ、将来的には年間70~100キロを目指しているという。
大勢の人が畑に押し掛ける事態に!
蓑茂さんは「夢がある取り組み。ワインとして収益化することで、緑化の負担を軽減することにつながれば」と夢をふくらませる。
屋上緑化は、地球温暖化対策として、国が推進している。国土交通省の調査では、2000年から22年までに計約597ヘクタール分の屋上緑化が進んだという。ただ、維持管理や費用面がビル運営の負担となる課題もあった。
そこで、竹中工務店が目を付けたのが、ワイン造り。手本としたのは、米・ニューヨークのブルックリンにある本格的な屋上ブドウ園で、三つ星レストランで1本1000ドル(約15万円)で提供されるような高級ワインも造っているという。竹中工務店は19年から、江東区の深川エリアで、このブルックリンのブドウ園などとも連携した屋上栽培を始め、ノウハウを蓄積してきた。
大手町ビル屋上でのブドウ栽培が始まったのは、リノベーション工事が完了した22年春。専門家からは、東京のオフィス街は、夏の暑さが過酷な上に、ヒートアイランド現象で寒暖差が少ないことから、ブドウ作りに向いていないとの意見もある中での挑戦だった。一方で、ビル風が常に吹いている環境が、防虫につながるとの期待はあったという。
デラウェアやマスカットベリーAなど5種のブドウの苗を、有機物量などが異なる3種類の土壌に植えた。今後ほかのビルでの活用も見越し、屋上の重量制限を考慮し土壌の深さは30センチと浅めにしている。
果樹が実を付けるのは時間がかかるとされるが、植えた翌年の23年には実を付け、約5キロを収穫。ワインを造るのに必要とされる20度以上の糖度もクリアし、750ミリ・リットル5本分のワインを醸造した。関係者で試飲したところ、「さっぱりとして飲みやすい」と好評だったという。
三菱地所と竹中工務店では、区民や地域で働く人も楽しめるようなイベントを開くことや、「大手町」や「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」産ワインとして販売することも目指している。取り組みを担当する三菱地所の小林哲平さん(26)は、「ワインを地産地消し、エリアの付加価値につながれば」と話している。
|