最強の米「コシヒカリの味」東西で違う意外な事情

出典:東洋経済
 

コシヒカリの味は東西で違う

 コシヒカリは、ほぼ全国で栽培されています。ただし、北海道、東京都、沖縄県は、産地品種銘柄になっていないので、栽培されていたとしても「コシヒカリ」と表示することができません。

 そして、一般的にお米の味の傾向は、大きく東西に分けることができます。コシヒカリも同様です。

 近畿地方以西の西日本のコシヒカリは、しっかりした食感で粘りもやや少なめ、甘味とうま味も控えめな傾向です。

 一方、東日本の日本海側と内陸部のコシヒカリは、柔らかくて粘りが強く、ふっくらとして甘味とうま味も強くある傾向です。また、東日本の太平洋側のコシヒカリは、適度な柔らかさと粘りがあり、甘味とうま味も適度にある傾向があります。

 ただし、実際にはその場所の地形や土質、水質、気象などによって、微妙に味が異なっています。

 例えば、新潟県の魚沼産コシヒカリは、柔らかくてモチっとした粘りが強く、心地良い弾力があり、甘味、うま味がとても強いため、白飯として食べるととてもおいしいといわれています。

 しかし、魚沼産コシヒカリを食べて「おいしくなかった」という経験をされた方もいらっしゃることでしょう。これは土質、水質、気象など、魚沼地方のなかでも、細かい地域でその環境に違いがあるためです。

 近年、お米のコンクールで金賞を受賞している地域は、群馬県北部や長野県、岐阜県など標高が高くて、綺麗で比較的冷たい水が豊富な地域が増えている傾向にあります。

 もちろん、ただ気候が変わっただけではおいしいお米はできるものではなく、その地域の生産者の方々の努力が実を結んだというのが最もでしょう。

 また、余談ですが、他県で生産されたコシヒカリの種子をもらって植えたところ、できあがってきたコシヒカリの味は、いつも生産しているコシヒカリとは違うという報告も耳にしました。

「コシヒカリの子どもたち」に注目

 今では、コシヒカリ系統以外のお米を探すのがとても難しくなっているほど、コシヒカリの影響が大きくなっています。

 コシヒカリのおいしさを未来にもつなげようと、コシヒカリを親にした新しい品種が増えました。「ひとめぼれ」「あきたこまち」「ヒノヒカリ」などは代表的なコシヒカリの子どもたちです。

 さらに、コシヒカリの突然変異という形でもたくさんのお米が生まれています。

 岐阜県で発見された「いのちの壱」や、福島県で発見された「五百川」はコシヒカリの突然変異種です。コシヒカリを人為的に突然変異させて作られた品種には、「ミルキークイーン」や「夢ごこち」などがあります。

 さらに、コシヒカリの孫世代、ひ孫世代までを入れると、コシヒカリ系統のお米は数えきれないほど存在しています。

 孫世代では富山県の「富富富」、新潟県の「こしいぶき」、青森県の「つがるロマン」、石川県の「能登ひかり」、山形県の「はえぬき」、千葉県の「ふさおとめ」、鳥取県の「星空舞」などがあります。

 ひ孫世代で評判が良い品種としては、山形県で生まれた「つや姫」、秋田県で生まれた「サキホコレ」、佐賀県の「さがびより」、最近お米のコンクールで金賞を獲得している「ぴかまる」「ひめの凛」、新潟県で評価が高くなってきている「みずほの輝き」、そして北海道の「ななつぼし」や「きらら397」もコシヒカリのひ孫世代です。

 これだけの品種を誕生させているコシヒカリは、種親としてのパフォーマンスも素晴らしいとしか言いようがありません。

 さて、最近のコシヒカリは、夏の異常な高温によって白濁したり極端に食味が落ちたりしているのが問題視されています。

 標高が高くて冷涼な地域では美味しいコシヒカリが生産されていますが、平野部でも美味しいコシヒカリが採れ続けるためには、研究開発が欠かせません。

 高温にも強い素敵な品種がもっと研究されると、コシヒカリの遺伝子はさらに優秀なものになっていくでしょう。