青森「リンゴ産地の危機」雪害甚大

出典:日本農業新聞

枝折れ広範囲、長期化懸念

 全国有数のリンゴ産地である青森県津軽地方の広い範囲で、リンゴの枝折れや幹の裂開などの被害が相次ぎ、甚大な被害が見込まれる。県などは今週から被害調査をする予定だったが、積雪がまだ多くたどり着けない園地もあることから断念した。4月半ばの調査で被害が判明する見通しだが、JAなどは収量の減少は避けられないとみる。木のダメージが大きく、影響は長期に及ぶ恐れもある。

 青森県は全国の6割のシェアを誇り、そのうちの大半が津軽産だ。津軽地方は昨年から大雪に見舞われ、雪が溶けないうちに寒波が長期間居座り、さらに次の寒波に見舞われた。弘前市では2月に観測史上最深の積雪となった。

 県が2月下旬に36地点で調査したところ、3割以上が枝折れしていたり裂開していたりした木が15%程度あった。ただ、県は「大部分が雪に埋もれて木の先端部分しか分からないなど、正確な被害状況は不明」(リンゴ果樹課)とする。県は関係機関と3月半ばから被害調査する予定だったが、まだ園地には雪が積もったままで、1歩進むのも大変な状況のため延期した。農道の除雪ができず、たどり着けない園地も複数ある。

 JA津軽みらいは「折れていない木はないほどの地域もある。全容は分からないが、これだけ広範囲で深刻な積雪被害は過去にない。花芽の調査は良好だったが、減収は確実だ。離農者は複数出てくるだろう」(営農課)と懸念。現在雪に埋もれている枝は、今後の雪溶けに伴い折れる可能性があり、さらに被害が拡大する恐れがある。

JA青森は「目視できる園地だけでも木の状態は非常に悪い。単年度の減収だけでなく、中長期的な影響が心配だ」(りんご販売課)とする。弘前市の卸売市場を経営する弘前中央青果は「積雪がひどく、枝折れが相当数になっている。どれだけ減収になるかは不明だが、当然、津軽のリンゴの出荷量が減ると全国の相場を左右する」(りんご部)とする。

— 疲弊する農家 園地を歩くだけで重労働 —

 青森県の津軽地方を襲った今冬の積雪。「リンゴ産地の危機」(JA津軽みらい)との声が上がり、離農者が相次ぐとの見方もある。まだ積雪が残る園地を歩くだけでも重労働だ。現場では春作業の遅れも懸念されている。

 県内有数の産地・黒石市。見渡す限りの園地の木が枝折れし、幹すら折れた木が点在する。園地を一歩進むたび長靴が雪に沈み、数メートルの移動も一苦労だ。

 「全部、バキバキ折れた。かわいそうで、もう木を見たくもないほど。最悪だ」。50アールを栽培する木村謙典さん(75)が悲しそうな顔を浮かべる。年末からの断続的な寒波でシーズン通して大雪に苦しんだ。通常は1月から剪定(せんてい)が始まる。豪雪に対応した剪定技術もあるが、雪の中の園地に入り、木にたどりつくまでに時間が掛かる。

 多くの農家が重い融雪材の入ったバケツを持ち、雪の中を歩いて散布するが「想像以上に過酷」(JA)だ。そのため、散布の手助けとなる無人ヘリの予約が殺到している。しかし、台数に限りがあるため、大半が手作業を強いられている。

— 春作業遅れ懸念 —

 同市で2・3ヘクタールを栽培する木村功さん(53)が、折れた木を見つめて「くたくた。もう疲れ切った」と途方に暮れたように話す。枝折れしても皮が木にくっついていれば救える場合もあるため、支柱で支えるなどの作業を急ぐが、雪が邪魔だ。

 融雪材をまいたが園地にはまだ1メートル超の雪が残る。本来は木の全体バランスをみてするべき剪定だが、今年は雪から出た枝の部分だけを剪定し、補強作業もする。「通常は発芽前の3月末から作業する、ナシマルカイガラムシの防除ができる見通しがたたない。苗木も争奪戦で、本当に大変な状態だ」と嘆く。適期防除ができなければ、果実の品質や収量に大きな影響がある。

— 被害額分からず —

 JAによると、管内でも特に同市は折れていない木がないほどの甚大な被害が見込まれる。JA営農課の三浦正幹課長は「広範囲で深刻な被害が見込まれるが全体の被害額は想像ができない。これから雪解けになる過程でさらに重みで枝が折れる恐れもある」と危機的な状況を説明する。

 津軽地方のJAや行政などは豪雪対策本部を設置する。県内では2005年や12年、13年も記録的な積雪となったが、今冬はベテラン農家が「経験がない被害」と口々に言う。半世紀リンゴを栽培する弘前市の成田毅さん(71)は「これほどまでのリンゴへの雪害は過去にない」と話す。