イチジクの主な産地は和歌山、愛知、大阪、兵庫などです。イチジク株枯病は1981年に愛知県で初めて確認され、全国へ広がりました。2021年度は、栽培面積の約2割でこの病気が発生していると推測されています。この株枯病はイチジクで最も深刻な病害のひとつで、株枯病菌(カビの一種)が引き起こします。この菌に感染すると、葉が萎れて変色し、やがて樹全体が枯死します。土壌中に株枯病菌が残るため、病気が発生した土壌では新しい苗木を植えても、また感染し、数年のうちには枯れてしまいます。殺菌剤を土壌に注入する方法もありますが、安定した防除効果を得るために年間6回の注入を毎年行う必要があり、費用と労力の面から中々普及が進まないのが現状です。
こうした状況を打開する救世主として現れたのが新しい台木品種の「励広台1号」です。土壌中に株枯病菌がいても枯れない性質をもっています。この台木に栽培したいイチジクを接ぎ木すれば、すくすくと育ち、実をつけるわけです。
イチジクと同じ属の野生種であるイヌビワが株枯病に強いことは知られていましたが、イヌビワを台木にしてイチジクを接ぎ木してもうまく活着せず、枯れてしまいます。そこでイヌビワと同様に株枯病に強く、イチジクの活着しやすい台木の開発が始まりました。
様々な組合せ等を試みた結果、異なる種であるイチジクとイヌビワを交雑させて種間交雑体(写真2)を作ることができました。それに別のイチジクを交配させることで株枯病に強い新品種が生まれ、さらにイチジクの台木に使えることも確認されました。これが「励広台1号」です。株枯病で困っている産地を広く、励ます台木の第1号という願いを込めて、「励広台1号」と名付けられました。
「励広台1号」は、株枯病菌を接種して病気への抵抗性を調べる試験で、従来の台木よりも株枯病に強く、イヌビワと同程度の抵抗性を示すことが確認されました。
大阪府立環境農林水産総合研究所が「桝井ドーフィン」を接ぎ木した「励広台1号」台樹をほ場で栽培したところ、経営的に採算の合う指標とされる1樹あたり30.5kg以上の収量目標を3年目で達成でき、果実品質は「桝井ドーフィン」の自根樹と差がないことが分かりました。
また、広島県立総合技術研究所農業技術センターは「蓬莱柿」(写真4)を接ぎ木してほ場へ定植し、4年間、自根樹と比較しました。その結果、果実重、糖度は自根樹と同等であり、収量は生産目標の10a当たり2,500kgに定植4年目でほぼ達しました。
福岡県が育成した品種「とよみつひめ」についても福岡県農林業総合試験場豊前分場で同様の試験が行われました。糖度は自根樹よりも高く、収量、品質は差がないことが実証されました。
「励広台1号」を台木としたイチジク苗木は、2022年秋から一般社団法人日本果樹種苗協会に加盟し、利用許諾を受けた事業者を通じて販売が開始されます。なお、台木だけの販売はありません。長年開発に携わってきた広島県立総合技術研究所農業技術センター果樹研究部の軸丸祥大副部長は「本事業の成果によって、ようやくイチジク生産者のニーズにこたえられる台木ができました。これで減農薬栽培も可能となり、イチジク産地の活性化に貢献できます。」と、今後の広がりに期待しています。




