土中で熟成 春掘りナガイモ収穫/東北町

出典:Web東奥

 

青森県の春堀ながいも

 青森県内有数のナガイモ産地・東北町で、春掘り作業が始まっている。ナガイモは秋の収穫時、約4割を土に埋めたままにし、春に掘り出されるが、2023年産は猛暑の影響で例年より長かったため、秋掘りの作業がはかどらず春掘りでの収穫の割合が高いという。

 19年に皇位継承の重要祭祀(さいし)「大嘗祭(だいじょうさい)」にナガイモを提供したベテランの向井博徳さん(58)は18日から収穫を始めた。暖冬だったものの、3月に入ってからの降雪で、作業の開始は昨年並み。向井さんの畑でも23年産の約6割が春掘りという。

 25日は同町外蛯沢の約60アールの畑で、家族と外国人労働者の計6人で午後1時ごろから作業を開始。機械で掘り起こされた土から、冬期間に貯蔵・熟成されたナガイモを手で慎重に取り出し、泥を取り除いてコンテナに次々と収めた。

 向井さんは「ナガイモが例年よりおいしく仕上がっている気がする。いろんな料理法があるので、それぞれの食べ方でおいしく味わってほしい」と話した。

 向井さんは4月上旬ごろに春掘り作業を終える予定だが、町内では同月末まで続く。

 青森県のながいもは、生産量トップクラスを誇り、国内出荷量の約4割を占めています。主な産地は、十和田市、三沢市、東北町など、県の東側に位置する南部地方。南部地方は、太平洋から吹き付けるヤマセ(冷たく湿った東風)の影響を受けやすく冷害の常襲地帯であったため、ヤマセの影響を受けにくい根菜類、ながいも、にんにく、ごぼうなどが多く生産されています。

 

【凍み大根】凍らせることで一層滋味が深くなる

出典:Foodie

 

長野県泰阜村には、都心では失われてしまった昔ながらの食文化が今も息づいています。

 凍み大根は、凍らせることで大根の水分を抜きます。中に細かな空洞ができ、煮物の煮汁などが染みやすくなることが特長。滋味も一層深くなり、大根の濃厚な味わいを感じられます。

泰阜村では氷点下の外気に何日もさらし、凍らせては解凍する工程を繰り返して作りますが、環境が異なる地方では冷凍庫を使って作ることもできます。

<作り方>凍み大根の作り方
① 切る・茹でる
大根を皮ごと1cmくらいの厚さに切り、半透明になるまで茹でます。

② ひもを通す
中心部に箸で穴を開け、ワラやビニールひもを通します。大根同士がくっつかないよう、大根を通す度に結び目を作りましょう。通したらこのまま軒下などに干して凍らせます。数日は干しっぱなしにして、何度も凍らせては溶かすことを繰り返すのがポイントです。

冷凍庫を使った作り方

 大根が凍らない気候の地域にお住まいの方も、冷凍庫を使えば凍み大根を作ることができます。切って茹でた大根を袋に入れ、凍らせては外に出して干しながら解凍するという工程を水分が抜けてカリカリになるまで5回ほど繰り返しましょう。

※干す時間は、季節や環境によって差があります。記事内で紹介している方法で完全に乾燥しない場合は、追加で干してください。編集部の検証では5回凍らせては干したのち、さらに3日干して完成しました。

凍み大根の食べ方

 名人おすすめの調理方法は煮物。半日ほど水で戻した後、戻し汁と一緒にさつまあげ、ちくわ、ごぼうなどと煮るだけです。定番の味付けではありますが、大根の滋味が引き出され、出汁と混じり合うことで深いうまみを感じられます。

意外と簡単に作れそうな切り干し大根に凍み大根。お店で買ってくるのもいいけれど、自分で作れば一層愛着がわき、美味しく食べられそうです。食材の新たなポテンシャルの発見にもつながりそうな昔ながらの保存食作りは、一度始めたら結構はまってしまいそう。

 

ギョウジャニンニク

お粥(全粥・七分粥・五分粥・三分粥・重湯)

出典:保健所

 

全粥

≪材料・分量(2食分)≫
米 3分の2カップ(約100グラム)
水 2と2分の1カップ強(米1に対し水5)
塩 適量
≪作り方≫

  1. 汚れを落とす程度に米を洗い、30分程度ザルにあける。
  2. 好みの水加減にし、強火で沸かす。
  3. 沸騰したら火を弱くしてフタをずらして、30分から40分煮る。
  4. 塩をひとつまみ入れて火を止め、底からかき混ぜる。

≪調理のワンポイント≫
 簡単におかゆを作るには、炊いたごはん(レトルトごはん)から作ることが出来ます。その場合、ごはん 1 対 水 2 の割合で鍋に入れ、強火で熱し、沸騰後、弱火にして煮てください。

七分粥

≪材料・分量(2食分)≫
米 2分の1カップ(80グラム)
水 2と4分の3カップ強(米1に対し水7)
塩 適量
≪作り方は全粥と同じ≫

五分粥

≪材料・分量(2食分)≫
米 3分の1カップ(約50グラム)
水 2と2分の1カップ強(米1に対し水10)
塩 適量
≪作り方は全粥と同じ≫

三分粥

≪材料・分量(2食分)≫
米 8分の1カップ(20グラム)
水 2カップ(米1に対し水20)
塩 適量
≪作り方は全粥と同じ≫

重湯

≪材料・分量(2食分)≫
米 15分の1合(約10グラム)
水 2分の1カップから1カップ(米1に対し水10から20)
塩 適量
≪作り方≫
5分粥以上で出来る「おかゆの汁」をよそう。

たまご粥

おかゆを作る時に、卵(1個)を加えるだけで「たまご粥」になります。
卵はたんばく質を多く含んでいるので、低栄養予防に良いです。

 

リンゴの渋味が、がんを防ぐ?

出典:わかさの秘密

 

今までは捨てていた未熟りんご

 りんごポリフェノールとは、りんごの皮に特に多く含まれるポリフェノールの一種で、強い抗酸化力を持ちます。活性酸素を除去する効果や、血流を改善する効果、口臭を予防する効果、肌を美白へ導く効果など様々な効果を持つ優れた成分です。
 熟していないリンゴ(未熟果リンゴ)は、味が渋いのでこれまでは捨てられるだけでした。 リンゴの渋味には害虫を寄せ付けないはたらきがあることは分かっていましたが、渋味がネックになり、なかなか商品化されていなかったのです。
 しかし、数年前に、未熟果リンゴの渋味には、お茶のポリフェノールと同じ成分が含まれていることが明らかになり、有効利用が進んできています。

がん予防のほか、虫歯予防や美白効果も

 ポリフェノールは、がんを予防すると注目されていますが、それ以外にも、虫歯予防、アトピー性皮膚炎のかゆみの抑制、肌を白くするという効果などがあります。これをいち早く商品化したのが、洋酒メーカーのニッカウヰスキーでした。
 当初ニッカでは、発泡酒「シードル」をきれいなバラ色に染めるのに未熟果リンゴの渋味を使っていました。その後、渋味の中にポリフェノールとほぼ同じ成分が含まれていることが分かり、本格的に製造を開始しました。

菓子や化粧品にまで広がる

 未熟果リンゴのポリフェノールは、お茶や赤ワインと違って苦みが少なく、水に溶けやすいのが特長です。最近では水に溶けやすい性質を生かして、粉末や液体の形で次々と食品メーカーを中心に商品化が進んでいます。
 最も多いのが、虫歯の予防効果を狙ったガムやあめなどの菓子類です。今ではかなりの数の商品が出回っています。
 広がりを見せる未熟果リンゴの再利用に対して、青森県の弘前市周辺のリンゴ農家から1500tのリンゴが集められるという動きもあります。
 ただし、ポリフェノール成分濃度が高いのはピンポン玉程度の大きさのものに限るということです。

医果同源

 

郷土料理|秩父地方の保存食 しゃくし菜漬け

出典:世田谷自然食品

 


 しゃくし菜漬けはアブラナ科の植物で、チンゲンサイの仲間でもある「雪白大菜(セッパクタイサイ)」を漬けたものです。秩父地方では、タイサイの形がしゃもじ(飯じゃくし)に似ていることから「しゃくし菜」と呼ばれています。 野沢菜漬けやキムチのように、塩だけでなく乳酸発酵も利用して漬けられる点や、塩分控えめで酸味がある点が特徴です。

寒さが厳しい秩父地方の冬の保存食

 長野県木曽地方の「すんき漬け」と同じように、しゃくし菜漬けも、もともとは寒さが厳しい山間部である秩父地方の冬の保存食でした。昔は冬を前に、家ごとにしゃくし菜を漬けていて、それぞれの家庭の味があったと言われています。

毎日摂りたいβカロテンがたっぷり

 しゃくし菜漬けの素材であるタイサイは緑黄色野菜で、βカロテンを豊富に含んでいます。βカロテンは抗酸化作用に優れ、免疫力を高める力も持っています。また、体内でビタミンAに変換されて体の成長を促し、目を健やかに保つ働きもあります。

骨を健やかにするカルシウム、ビタミンKも

 タイサイは小松菜などと同様に、骨の材料となるカルシウムや、骨を作る働きを促すビタミンKを多く含んでいます。野菜のカルシウムは吸収されにくいので、ビタミンDなど吸収を助ける栄養素の多い食材を一緒に摂るのがおすすめです。

葉酸、カリウムに加えて、漬物になることで乳酸菌と食物繊維の相乗効果も

 タイサイには、血球・DNAの合成に関わり、貧血を防ぐ働きのある葉酸や、体内の余分な塩分を排出してくれるカリウムなどの栄養素も多く含まれています。また、しゃくし菜漬けは乳酸発酵を利用するので善玉菌である乳酸菌もたっぷり。善玉菌のエサになる食物繊維も豊富なので、おなかを整えるのにも役立つのです。

しゃくし菜漬けのおすすめの食べ方
塩味が強くないので肉や魚の付け合わせにも

 漬物といえばご飯のお供やお酒のおつまみを連想しがちですが、しゃくし菜漬けは塩味が強くないので、焼き魚や肉料理などの付け合わせにもぴったり。さっぱりとした酸味で、ちょうどいい箸休めになります。

油炒めや、納豆と和えたりしても◎

 高菜漬けのように、しゃくし菜漬けを油炒めにしてもおいしくいただけます。油がβカロテンの吸収を助けるので、栄養面でもおすすめの食べ方です。刻んだしゃくし菜漬けを納豆と和えれば、乳酸菌と納豆菌で善玉菌たっぷりの小鉢に。納豆のたんぱく質は、骨を健やかにするのにも欠かせません。

チャーハン、ぎょうざの具にするのもおいしい

 ボリュームのあるメニューと合わせるなら、油がβカロテンの吸収を助ける、チャーハンやぎょうざはいかがでしょうか。しゃくし菜漬けのシャキシャキした食感がアクセントになりますし、独特の酸味は、塩分を控える助けにもなります。

 なかなか珍しい「しゃくし菜漬け」ですが、通信販売も行われていますし、首都圏近郊のデパートやアンテナショップなどでも手に入るようです。そのまま食べても、アレンジしてもおいしくいただけますから、見かけたらぜひ試してみてくださいね。

 

ニワトコ(接骨木)

出典:森と水の郷あきた

 

山菜や薬用に利用されてきたニワトコ

 山野の林縁に生える落葉低木。若葉は山菜、葉や枝、花を薬用にするなど、古くから親しまれてきた身近な樹木。早春の芽吹き、春の白い花、夏の赤い実と楽しめる。昔は、小枝を鳥籠の止まり木にしたり、正月用の削り花として床に飾ったりした。本種の枝や樹皮を煎じたものを湿布薬として用い、骨折や捻挫の治療に利用したのが別名「接骨木(せっこつぼく)」。

名前の由来

 薬用として庭に常に植えられていることから、「庭常」と呼ばれるようになったとの説や、古く「ミヤツコギ(造木)」という名前から転訛したとの説もある。また、この木を黒焼したもの、あるいは枝を煮詰めてアメ状にしたものを骨折の患部に湿布して治療したことから、別名「接骨木(せっこつぼく)」という。

花期

 4~5月、高さ3~6m
 花・・・若葉と同時に本年枝の先に円錐花序を出して、淡い黄白色の小さな花を多数つける。
 雄しべ、雌しべ・・・中心の紫色が雌しべで、その周囲に5本の雄しべが取り囲む。
 果実・・・6~7月の梅雨の頃、鮮やかな赤い実が枝先を飾る。中に種子が3~5個ある。

山菜としての利用、食べ過ぎに注意

 新芽、つぼみを山菜として利用する。新芽はハカマから出たばかりの葉の開く前を手で摘む。塩を一つまみ入れた熱湯で茹で、十分に水にさらして使う。天ぷら、汁の実、おひたし、胡麻和え、酢味噌和えなど。ただし、青酸配糖体を含むので、食べ過ぎるとお腹を壊すので注意が必要。

 薬効・・・葉や木部を煎じて飲むと発汗や利尿に効くとされている。また、打ち身に湿布するとアザが浮いて良く効くとされている。

 縄文時代から利用していたニワトコ酒・・・三内丸山遺跡からたくさん出土するニワトコの種子の中に、キイチゴ、サルナシ、ヤマグワ、マタタビ、ヤマブドウなどが含まれていた。これらの実を収穫し、乾燥した後決まった配合で煮出し、それを発酵させて果実酒をつくっていたという。秋田県では、これらの種子の絞り滓と考えられるものが実際に見つかっている。

 

ヘーゼルナッツ

カボチャの抑制栽培

出典:agri-kumamoto

 

露地抑制かぼちゃの栽培管理

 かぼちゃは果皮が硬く貯蔵性に優れるウリ科野菜で、日本では古くから、野菜の不足する冬至の時期に食べる風習があります。
 冬場は、中南米や南半球の国々からの輸入が主ですが、近年、国産野菜への回帰志向により、国内における抑制栽培が拡大しています。宇城地域の美里町でも、かぼちゃの露地抑制栽培が推進され、「美里かぼちゃ」としてブランド化に取り組んでいます。しかし、抑制栽培は、播種時期の高温や台風の襲来、秋の長雨など気象災害の被害を受けやすいことや、栽培後半には気温が低下していくため、栽培の難しい作型です。

播種

 7月下旬から8月中旬に、ほ場に直播きします。発芽を揃えるため、播種前に種子を1時間程度、水に浸す「浸水処理」を行います。浸水後は、種子の腐敗を予防するため、水分をしっかり拭き取ります。欠株に備え、7.5㎝ポット等で補植用の苗も準備しておきます。
 初霜が降りる前に収穫できるよう、播種時期は遅れないようにすることが大切です。

整枝

 大玉を生産するため、親づる1本仕立て1果どりとします。つるが1m程度伸びたころから、目標方向に竹串や針金などで誘引します。
 茎のころび防止のため敷きわらも有効です。誘引作業とともに、各節から発生するわき芽は適宜取り除き、通気性と採光性を良くします。特に、雌花が着生した節のわき芽は速やかに取り除き、果実に養分を集中させます。そして、主枝は着果節位から10~15節上位で摘芯します。
 これらの作業は晴天時に行うことで、切り口が速やかに乾燥し、病害への感染を防ぐことができます。
生育後半になれば、気温の低下と着果負担の増加により、草勢が低下しやすくなります。そのため、生長点付近のわき芽を2~3本放任することで、草勢を維持します。ただし、草勢が強く、わき芽の発生が多い場合は、随時摘芯します。

交配・摘果

 野生のハチやアブ等による自然交配とします。補助的に人工交配をする際は、早朝に行います。
 理想的な着果節位は15節前後です。直径8㎝程度まで肥大した良形のものを残し、不要な果実は速やかに取り除き、1株当たり1果とします。10節以下に着いた果      実は乱形果、小玉果、肩こけ果になりやすいので、着果させないようにします。

玉敷き・玉直し

 果実が直接、地面と接していると腐敗のリスクが高くなります。そのため、交配後20日頃に、果実の下にマットを敷く「玉敷き」を行います。
 また、果皮の着色ムラを防ぐため、収穫10日前を目安に接地面をずらす「玉直し」を実施します。この時、果梗部(果実のヘタの部分)やつるを傷つけないよう、丁寧に扱います。
 なお、果実に直射日光が当たる場合は、新聞紙などを利用した日焼け果対策が必要です。被覆した後は、オオタバコガなどの害虫が侵入していないか、こまめに確認してください。

収穫

 収穫の目安は、着果後45~50日が経過し、緑色だった果梗部が茶色にコルク化した頃です。収穫前には、試し切りを行い、完熟程度を確認します。
 降雨後の果実は、水分が多く含まれており、貯蔵中に腐敗する可能性が高いため、雨の直後は収穫を控えてください。

収穫後の貯蔵管理

 収穫後、果実の腐敗を防ぐとともに、デンプンの糖化を促し、食味を向上させることを目的に、貯蔵管理を行います。
 まず、果梗を短く切り取り、風通しの良い日陰で7~10日程度切り口を乾かすキュアリングを行います。その後、腐敗果や傷果等を選別し、風通しの良い納屋などで貯蔵します。貯蔵適温は10~15℃、貯蔵期間は40~50日程度です。貯蔵期間が終了した果実から計画的に出荷を行います。

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「巨峰」を創った大井上康と仲間たち

出典:JATAFF

 

不安定になりがちで、栽培が難しい。

 夏になると、ブドウの「巨峰」がくだもの屋さんの展示棚を飾る。大つぶで深紫色の果粒、並外れた甘さとしまった肉質、芳醇な香りが、 高級品好みの最近の消費者に受けるからだろう。

 令和4年現在の栽培面積は1,621ヘクタール。自由化時代のわが国農業にとって、頼りになる仲間である。

 その巨峰は民間育種家大井上康によって昭和20年に育成された。

 大井上は海軍少将の子、父の勤務地広島県江田島の兵学校官舎で明治25年に生まれた。当然、軍人になるべきところを、幼時に結核性関節炎をわずらい片足が不自由だったため、 農業改良をこころざす。東京農大を卒業後、理農学研究所を設立、大正8年から静岡県中伊豆に住み、本格的なブドウ研究をはじめた。とくに語学に長け、 仏・英・独などの文献を広く読破、30才の時には渡欧して2年間フランスなど各国のブドウ研究に学んで回ったという。

 巨峰は岡山県石原農園で発見されたキャンベルアーリーの枝変わり系統「石原早生」とオーストラリアの品種「センテニアル」とを交配した4倍体品種である。 雨の多い日本の露地で作る大粒種というのが育成の狙いであった。

 交配は昭和12年で、育ったのは戦中戦後の食料難の時代である。当然世に入れられず、少数の理解者によって守られてきた。

 巨峰はまた倍数体品種の宿命で環境変化に弱く、着花稔実は不安定になりがちで、栽培が難しい。才能は抜群だが気むずかしく育てにくい天才少年のような品種であった。

 この気むずかし屋の品種が伸びたのは、大井上とその理解者たちによって、剪定や房作りなど樹勢を調節する技術開発が徹底的になされたからである。

 その仲間が後年、日本巨峰会を結成する。今どきの言葉でいえば、強力なサポーターの支援であろうか。巨峰を創ったのは大井上だが、育てたのは巨峰会であろう。

 現在会員数5千人あまり、各県はもちろん海外にも支部をもつ。研修会をつねに開き、生産だけでなく品質管理・販売まで、会員相互の研さんと情報交換に励んでいるという。 閉鎖的というそしりがないわけではないが、限られたメンバーで品質をきびしく管理し農産品の市場評価を高めていく、これからの農業にはぜひ必要な行き方の一つであろう。

 大井上は昭和27年に亡くなった。研究所は長男の静一氏が継いでいる。梅雨のある日、修善寺近くの丘の上に研究所を訪ねてみた。天気のよい日には正面に広大な裾野をもつ富士山が見える。 大井上はこの景観にちなんで「巨峰」と命名したという。

 富士を背に大井上の胸像と記念碑が建つ。碑文には「何よりもたしかなものは事実である」とある。終生、野に生きて技術革新に尽くした大井上ならではの自信に満ちた言葉である。