野菜を売らない農家の稼ぎ方

 かつて僕は自然農農家として野菜を販売して生計を立てることを目指していました。しかし、あることをきっかけに「野菜を売らない農家として生きていく」ことを決意します。3人の小さい子供を育てながらという状況でしたので、どうやって稼いでいくのかについては、本当に試行錯誤の連続でした。それから8年後の現在、僕がどうやって野菜を売らずに農家として生計を立ててきたのか。

現在の主な活動について

 「野菜の販売だけでは収益が上がらない」「農というコンテンツを生かした事業展開をしたい」、あるいは「もっと農業という仕事を楽しんで日々を過ごしたい」という人にとって、もしかしたら稼ぎ方のヒントになるかもしれませんので、ぜひ読んでみてください。

 現在僕は地元、鹿児島市にある「のおとファーム」という場所を拠点に活動しています。ここは主に「畑の寺子屋」という体験農園として、畑づくりを学びたいという人たちが区画を借りて実践する場所になっており、僕が講師として自然農法に基づいた畑づくりを教えています。
 この場を中心としてオンラインも活用しながら、「暮らしを豊かにする畑づくり」を教えるということを仕事としています。野菜を売らずに、野菜の作り方を教えることで生計を立てているわけです。

なぜ野菜を売るのをやめたのか

 もともと僕は「自然農」という大型機械や農薬、化学肥料を用いない農法を学び、その方法で季節ごとの野菜を栽培して収穫し、野菜セットにして販売する仕事をしていました。それなりに野菜もちゃんと育ち、なんとか自分たちでお客さんを見つけ、一般的なスーパーで販売されている倍の価格で販売することができるようになりました。

 しかしトラクターを使わない農法であるがゆえに、どうしても栽培できる面積に限りがあり、倍の価格で販売しても大きな収入にはなりません。そのために頑張って面積を増やそうとするのですが、頑張れば頑張るほど、あれだけ好きだったはずの畑仕事がどんどん辛くなっていきました。
「ブランド価値を上げることでもっと価格を上げる」とか、「自然農ではなくもっと経済効率の良い農法に転換する」という選択肢もあるでしょうが、その道を突き詰めた先に自分やお客さんの暮らしがどんどん豊かになっていくというビジョンを、その時に描くことはできませんでした。
 生産販売を始めて3年ほど経過したあるころに、心も体も燃え尽きてしまい、まったく仕事ができなくなることがありました。その時期は本当に辛くて、まったく別の業種に行くことも検討するほどでした。

 しかし、1カ月ほど休んで畑に行き、そこの植物たちを見ていると自然と涙があふれてきました。ありのままの草花や虫たちの様子を眺めていると、「そのままでいいんだよ」と言われた気がしたのです。そこからいろいろ考えた結果出た答えが、野菜の販売をやめることでした。
 自分は畑づくりを通して自然と触れ合い、癒やされ、そこから多くの学びや感動を得ることで救われた人間なので、これを直接体験する人をもっと増やした方が、社会が良くなるのではと思いましたし、僕の中の情熱はそこにあると感じたからです。

稼ぐために試したこと

 最初に始めたのが、現在も僕の仕事の大きな柱である「畑の寺子屋」です。畑の区画を家庭菜園をしたい人に貸し出し、その当時は自分だけでは経験不足だったため、有機農業をしている父が講師として指導するという形態で始めました。その後僕が講師を引き継いでからは、自然農をベースとした畑づくりを教える場に変わっていきました。

 しかしもちろんそれだけではたいした収入にはならないので、それ以外にも以下のような仕事を自分で考えたり、その時々にいただいたご縁を通した活動を行ったりしてきました。

  • カフェや飲食店で自然農についてのお話会の開催
  • プランターで野菜を育てるワークショップの開催
  • 出張で家庭などの庭先に小さい花壇を作成し、野菜を植える仕事
  • 雑草堆肥(たいひ)やコンポストづくりを学ぶワークショップの開催
  • 公民館講座の講師
  • 自然農法についての講演会
  • 記事の執筆
  • YouTubeチャンネルの運営
  • オンライン講座の開催

 普段畑に全く縁のない人たちにも、気軽においしいご飯を食べながら自然のことや野菜づくりのことを知ってもらいたいと思って始めたのが、カフェや飲食店でのお話会です。「虫が食べる野菜はおいしいってほんと?」とか「緑色が濃いほど良い野菜?」など身近な話題から野菜のことや、自然界の不思議な仕組みについてお話ししていました。とても地道な普及活動ではありましたが、この時の積み重ねが今も生きているなと思います。

 そしてより大きな転機になったのが2020年の6月、YouTubeチャンネルを開設したことでした。それまで執筆のお仕事を通して、みんなに読んでもらえるようなタイトルの付け方や、構成の作り方などが鍛えられていたため、すぐに登録者が増え、より多くの人に僕の活動を知ってもらえるきっかけができました。また当時はコロナによる外出自粛などが多い時期で、家庭菜園に興味を持つ人が増えていたタイミングだったのも登録者数が伸びる大きな要因だったと思います。
 さらにこの時期にオンラインでの講座が当たり前になったため、遠方の人でもオンラインで教えることができるようになったのは、活動の幅を広げる良い機会になりました。YouTubeを通してつながった人が、オンライン講座やさまざまなイベントに参加してくれるようになり、一気に集客が楽になりました。また、以前は「自然農とは何か」みたいなところから理解してもらうことがそもそも難しかったのですが、今ではすでにYouTubeを見てから講座に来る人が多いので、非常に活動がしやすくなりました。

 
出典:マイナビ農業