『ミミズの農業改革』で紹介されている、土を耕さず、雑草を抜かずに地面を草で覆う「不耕起草生栽培」は、土壌の劣化を防ぐだけでなく、農業従事者の営農コストを下げて収益を上げ、さらには、作物の味を向上させることにもつながります。いいこと尽くしのように感じるこの栽培方法は、なぜ日本で普及していないのでしょうか。
僕らのような生態学者としては、農業に関しても畑を耕さず、除草剤も使わない「不耕起草生栽培」が一番いいと思っています。その効果をきちんと実証するためにも、他の栽培方法との比較が欠かせません。ここで観察しているのは、耕すか耕さないか、除草剤を使うか使わないか、化学肥料を使うか堆肥を使うかを組み合わせた全部で8種類の畑です。日本で取り入れられているだいたいの栽培方法は網羅されているので、それぞれの栽培方法における作物の生育や収量の違いなどを観察できます。
今年はソルガム(モロコシ)というイネ科の作物を栽培しましたが、一番収量が多かったのは、耕して除草剤や堆肥をまいた「慣行栽培型」の畑と、耕さず、除草剤もまかずに堆肥をまいた「不耕起草生栽培型」の畑でした。つまり、耕したり、除草剤をまいたりしなくても同じ効果が得られたということになります。
鋤(すき)や鍬(くわ)などの農具やトラクターなどを使って土を耕す「耕転」や、雑草類などを取り除く「除草」という農作業はきわめて一般的です。また、科学の発展や技術革新によって、農薬や化学肥料、除草剤など多くの製品が開発されたことで、どのような環境にあっても同じ効果を期待でき、効率的に作物を育てることが可能になりました。しかし、こうした「慣行栽培型」の農業は、長期的な視点でみると土壌の劣化を促進し、収量を減らしてしまいかねないと金子さんはいいます。
その後、いくつかの大学の研究室を経て、より幅広い分野で研究をするようになった金子さん。自身の新たな研究テーマを探すなかで出会ったのがミミズでした。
ミミズの糞の団粒は保水性に富みますが、粒と粒の間には隙間があって水が容易に流れるので排水性も両立しています。実はホームセンターなどで農業・園芸用として売られている鹿沼土や発泡石も、このミミズの糞の団粒と同様の構造を持っています。わざわざ買いに行かなくてもミミズがつくってくれるのです。
ただし、繊細なミミズは、畑を耕すことで切れて死んでしまったり、長期にわたって棲みつかなくなることも研究によって明らかになってきました。また、除草剤を使って雑草が消え、裸地になると、それまで植物が光合成を経て根から供給していた有機物が減少し、生物の餌がなくなってしまったり、土の乾燥を助長させて土壌生物にとって棲みにくい環境となってしまうといいます。不耕起草生栽培を何より好むのは、ミミズのような土壌の生物たちなのです。
金子さんが農地での土壌の生態に関心を持ったのは、ミミズたちが元気に活躍する畑の土と出会ったことがきっかけでした。自然農や自然栽培といわれる、不耕起で地面が雑草などに覆われている農地です。
それで、いざ自然農の畑に連れて行ってもらったら、やっぱりミミズがたくさんいましたし、何より耕すとミミズがいなくなってしまうことがわかったので、これはちゃんとやらないといけないなと思い、2010年頃から茨城大学の小松﨑将一さんと土を耕耘せず常に地面が植物に覆われている農法を「不耕起草生栽培」と呼んで栽培システムとしての妥当性の研究をはじめました。
ライ麦によって雑草の発生をかなり抑え、労働コストを抑えられることが実証できてきたという金子さん。田んぼでもライ麦を採用することで雑草の発芽を抑えることに成功した
ライ麦の持つ“アレロパシー”という物質は、他の植物の発芽を抑える働きがあります。ライ麦は秋から春にかけて2メートルくらいに生長するので、それを地面に押し倒すことでライ麦の成分が土に投下されることになります。また、地面を覆うことで日光を遮断するので、ライ麦が天然のビニールマルチの役割を果たして、発芽をさらに難しくします。
出典:Greenz.jp

