2017年、FAO(国連世界農業機関)は「サボテンは世界の食糧危機を救う作物になりうる」と発表した。気候温暖化で世界中に乾燥地が拡大しつつある現在、乾燥地に強いサボテンに注目したい、と。
日本のサボテン研究の第一人者、堀部貴紀さんによる『サボテンは世界をつくり出す 「緑の哲学者」の知られざる生態』(朝日新書)は、サボテンの生態の何がどのように環境耐性があり、気候変動に役立つのか、初歩から教えてくれる。
堀部さんによると、サボテンは南北アメリカ原産であり、16世紀の大航海時代以降に世界各地に広まった。日本へは、17世紀後半にオランダ人によりもたらされた。
サボテンの利活用法は地域によって異なっており、日本や欧州では主に観賞用だが、アメリカの南西部では広漠とした風景の象徴であり、原産地の中南米では食料、医薬品、家畜の飼料、宗教儀礼の必須品などとして用いられてきた。
―― 本場の中南米ではやはり食用ですか?
「食用ウチワサボテンが中心ですが、作物として成長が早いんですね。植えた次の年から収穫できて、長ければ35年ほど利用可能です。サボテン畑では普通は8~10年で植え替えますが」
ウチワサボテンは、若いウチワ(茎節)をトゲを取り除いて炒め、肉類の添え物として食べるのが一般的だ。果実は、植えて3、4年で収穫でき、甘い。
―― 家畜の飼料としても優秀だとか?
「ええ。1ヘクタール分のウチワサボテンは年間5頭の牛の飼料になりますが、これは約60倍の広さの牧草に匹敵します」
医薬品としては、昔から中南米の先住民の間で、火傷、切り傷、皮膚病、胃の不調などに効く、と重用されてきた。
―― 近年、医学的にもそのことが解明された?
「サボテンの粘液や食物繊維が、血糖値を抑え、コレステロール低下の作用があるとわかりました。抗炎症、抗ウィルス作用も」
地域によるサボテンの利活用法で重要なのが、アフリカや中東など水不足に悩む乾燥地における作物としての実利的側面である。
―― サボテンは砂漠から熱帯雨林、高山地帯まで幅広く分布していますが、最大の特徴はやはり乾燥適応性の高さですか?
「そうですね。水分を効率的に吸収して、逃すことなく保存する機能がありますから、限られた水分を無駄なく利用できます」
本書によると、サボテンの皮層や髄には水を貯える細胞群があり、稜(茎のヒダ)は吸収した水分量によって伸縮できる。また、CAM型光合成といって、夜間に二酸化炭素を取り込んでリンゴ酸に変換し、それを分解しながら光合成を行うことにより、母体の水分蒸発量を抑えることができる。
巧妙な水分節約機能を備えた植物なのだ。
堀部さんは世界で初めて、食用サボテンの水耕栽培に成功したのだ。
「培養液での栽培は、土壌栽培よりも成長が速くなるし、トゲの発生も抑制できます」
目下のところは、その延長線上で、LED照明で光の波長によるサボテンの発育・成長の調整、水耕栽培による重金属耐性試験など、さまざまな応用研究に挑戦している。今後は研究室からも、あらたなサボテンの可能性が広がるのかもしれない。
―― ところでサボテン料理ですが、日本ならどこで食べられますか?
「東京ならメキシコ料理店でしょう。メキシコは食用サボテンの最大の生産地ですからね。サボテン料理店が多い街なら、春日井市です」
中部大学のある春日井市にはサボテン料理を提供する店が28店舗ある。サボテンの中華もあれば、串焼きの店も。堀部さんが春日井サボテン振興アドバイザーを務める春日井市は、サボテン出荷量が日本で一番多いのだ。
