「木村秋則」を読む。

出典:読書倶楽部通信

 

『リンゴが教えてくれたこと』 木村秋則

土の硬盤層を壊す。

 自然栽培で失敗しないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。過去に肥料、農薬、除草剤、堆肥を使ってきた畑を自然栽培に切り替える場合、私はいつも言っています。

 「穴を掘ってください。そして十センチ刻みに温度計で測ってください」

 土の中には温度が低いところがあります。その場所に根がいくと、そこを避けようとして根は伸びていきません。

 皆さんも夏の暑い時に冷たいのはいいけれど、冬の寒い時は嫌ですね。根も同じじゃないかと思いました。風呂も同じです。沸かし途中の風呂に入ると、ある層で冷やっとします。それが根が伸びていかないところなのです。

 自然の山では、地表の温度と地下五十センチの温度はびっくりするほど差がありません。五十センチ下だとお日様のぬくもりがないから冷たいだろうと思われまが、実際はほとんど差がありません。

 普通の畑は二十~三十センチのところに硬盤層があります。その冷えたところを破壊しなければいけません。壊すのは人の力では無理です。植物の根を利用します、その一つに私は麦を勧めています。

 大麦は二メートル近く土の中に入ります。人が掘って壊す以上に麦の根は頑張ります。

 ただし、麦は肥料食いです。麦だけで壊すと土が痩せてしまいます。そこで豆と一緒に入れます。麦を二、三条播種したら、豆を一条植える方法をとります。すると、土の硬盤層が破壊されて作物がよくできるようになります。土に温度の低いところがある場合、壊さないと何年やってもダメなのです。

 今どの畑を見てもこの硬い層があります。硬い層を壊さない限り、三十年、四十年、私のような栽培をやっても、良い結果は得られません。なぜ失敗するかというと、植物の根は硬盤層を通り越すことができないからです。だから横に伸びます。

 サブソイラーという機械を使ってこの硬い層を壊したところ、根が育ちました。

 東北大学の山内文男名誉教授はこの硬盤層の下に豊富な栄養、養分があることを学識者として初めて発表しました。それまでだれもこのことを研究した人がいませんでした。硬盤層の下にはなぜか養分(ないと教えられている)が考えられないほどあることがわかりました。カリについては四千年分もあるそうです。これはまさに無尽蔵ということです。

 まずは穴を掘ってみることです。土の層がどんな状態にあるのかを確認してみてください。五十センチ穴を掘り、温度計を十センチごとに差します。すると温度が突然低くなる場所が見つかります。その低くなるところを壊します。人が壊すことはできません。というのはこの低い層が一定ではないからです。やはり植物の根に機械はかなわないのです。

 僕は養護学校の作業で畑をしたことくらいしかないので、これもまったく知らないことだったので驚いた。

 山の土の温度は、浅いところも、深いところもほとんど変わらない。そういう場所だと、根が深くまではることができる。

 普通の、畑は違う。温度の低いところがあって、そこから先には、根がはらない。

 しかし、その「硬盤層」を破壊した下には、豊富な栄養がある。

 「硬盤層」を破壊するために、「大麦」を植える。「大麦」の根は、硬盤層を破壊する。栄養を補給するために、そばには豆を植える。

 自然の力と、それと対立するのではなく、それを利用する人間の叡智(自然の人間化)が、見事に融合して、「自然栽培」というイメージが高次化されているように感じられる。