大豆栽培アップデート

出典:アグリバッファ

 

天候が大豆栽培に適さなくなってきた。自然も変わるなら自分も変わる。

 令和2年度の大豆の全国平均単収は161㎏だが、澤農園の近年の平均単収は100〜180㎏の間。「年によって収量のムラが大きくなっています。今年は180㎏は穫れると思っていても、雨や干ばつの影響を受け、90㎏にしかならない年もありました。単収をどうやって上げるか。これが大豆農家の大きな課題です」。
 しかし、大豆生産を始めた時からこのような状況だったわけではない。同農園は大豆生産を拡大する中で、機械化を進め、効率化を図り、平成19年には“先進的で他の模範となる経営体や生産集団を表彰”する全国豆類経営改善共励会の大豆農家の部で農林水産大臣賞を受賞している。その当時の平均単収は220〜230㎏。「あの頃は非常によく穫れていました。
 その時に行っていたのは、ごくごく一般的な当たり前のことだけです。播種をして、発芽させ、そして薬を効かせる。そうすれば200㎏は収穫できるという、本当に単純で、簡単なことでした」。その頃がピーク。その後徐々に単収が下降線を辿っていくことになる。遂にはピーク時と比較して半分以下しか穫れない年も出てきた。

 それでは以前と比較してなぜ穫れなくなってきたのか。「ピーク時と比較して、ここ数年の天候が大豆に適さなくなってきました。特にゲリラ豪雨や干ばつです。今年も7月15日を最後に、まとまった雨が降っていません(取材時8月5日)」。
 農業は天候に左右される。自然を相手にしている産業なのだからある程度は仕方ないが、ここ数年天候が農業に及ぼす影響は年々過激になり作物によっては時に破壊的だ。
 それでもその場をしのぐ懸命な取り組みが行われているが、もう従来の栽培方法では天候の影響に対応できなくなってきている。大豆の単収減を止め、さらには増やすために澤農園では、これまでの方法に捕らわれない新たな技術や工夫に取り組んでいる。自然が変わるなら自らも変わる。

高速畝立て播種機を導入し作業のスピードアップ、1日6〜7ha
 大豆栽培で最も重要なこは、如何に播いた豆を発芽させるかということ。そのためには、「播種日前後の天候をうかがいながら、播いた豆を発芽させるためにはどれぐらいの深さで播種するのかを常に意識しておかなければなりません」。晴天が続いていて土が乾燥していれば深めに播き、雨が続いた後なら浅めに播く。また、土の砕土率にも注意を払っている。

 さらに、播種時期が生育に大きな影響を与えることから適期の播種が大きなポイントになる。大豆は雨が降らないと発芽をしないが、ゲリラ豪雨のように降りすぎて冠水などするとこれも発芽を妨げる。そのため、澤農園では播種時期を分散している。「今年は6月22日から播種を始めて、6月28日に一旦播種を終え、梅雨明け後の7月18日から再び播種を開始して7月21日に終了しました」。1回目は限られた梅雨の晴れ間に播種を行い、2回目は梅雨明け後、なるべく迅速に行う。今までの経験と観察した結果、梅雨明け後3〜4日以内なら、雨が降らなくても、発芽率を高めることが可能だと導き出した。それらの作業で必要とされるのがスピードだ。

 発芽後の湿害を回避するためにもしっかりとした畝を立てた上での播種が必須となるが、限られた期間に限られた労働力で、耕起、播種、土壌処理剤の作業を行われなければならず、「一日の処理量を増やせるようにしないと適期に播種ができません」。そこで、新たな取り組みとして試験導入したのが農研機構が開発中の高速畝立て播種機だ。「1日で処理できる量がそれまでだと4〜5haでしたが、6〜7haの処理が可能になりました」。ロータリ式の畝立て播種機とは異なり牽引ディスク式の畝立て機構と高速対応の播種ユニットを組み合わせ、畝立て、播種、施肥の同時作業を6㎞/hの高速で実現する。異常気象に負けないための力として期待されている。

近年の異常気象による影響は日本だけの話ではない。大豆ではアメリカ産、ブラジル産が天候不順により大きな影響を受け、中国の旺盛な需要もあって価格が不安定になっている。既に大豆油やマーガリンは値上がりしている。数少ない物を取り合っていく。食料危機はそうやって始まっていく。日本の食、食文化を守る事に繋がる異常気象との闘いが大豆生産の現場にあった。

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