「耕さない農業」は異常気象に強かった

出典:現代農業

 

「耕さない農業」は異常気象に強かった
かつてのわたし、バッカじゃないの!
地球沸騰化時代に堂々不耕起宣言
異常気象でも収量2~3倍

 みなさんの地域では、気候はいかがでしたか? 私の住んでいる小笠原の父島でも、例年より気温が高く、夏の農作物の管理が大変でした。さらに、近年は大干ばつだったり、警報が出るほどの豪雨だったり、降水量の大きな変動が頻繁に起こっています。実際、この原稿を書いている前日(10月18日)、約50km離れた母島で1時間雨量125mmの記録が! 私たちはこの危機的変化にどう対処すればよいのでしょう?

 じつは、森本農園ではすべての農作物が不調だったわけではなく、反対に前年より2~3倍増収した野菜もあります。ここ数年で取り組んだことといえば、不耕起栽培と「生き草マルチ」(2023年5月号)、有機物の大量投入、化学肥料不使用、農薬削減です。少しずつ同時進行しているので、どれが決定的か不明ですが、私の観察から想像したことを報告してみます。 

耕すのも、化学農薬もやめた

 23年前に始めた野菜畑には、工事現場から出る赤い心土を50cmの厚さで客土して、有機物はゼロでした。雨が降ればぬかるみ、乾けばカチカチ。堆肥を入れ、刈り草をマルチし、機械で深く耕すこと15年、土が黒っぽくなってきました。

 最初の頃は除草剤を散布して、作付け前に2~3回耕耘していました。ただ、土がよくなると、ミミズやワラジムシ、キノコの菌糸などが増えて、有機物の分解を助けてくれるようになります。生物によくない気がして、まずは除草剤をやめました。それでも耕耘するたびに、生態系を破壊してしまいます。私も年をとり、歩行型耕耘機を扱うのが辛くなってきたので、だんだん耕すのを浅くして、ウネも低くなりました。そして遂に不耕起を実行! 2年前から耕耘機での作業をやめてしまったのです。同時に化学農薬(殺虫剤・殺菌剤)も使わなくなりました。

土は硬いが、穴だらけ

 耕耘していないので、土はフカフカしていません。表層は有機物マルチが分解した腐植で覆われていますが、その下の層は踏みつけても硬い感触です。杭や棒もすいすい差し込めません。しかし、スコップで掘り起こすと小さな穴だらけ。雑草の根穴か、ミミズなどの土壌生物の通り道だと思います。

 1日に80mm以上の大雨が降っても、あっという間にサーッと吸い込まれていきます。反対に、水やりしなくてもキュウリがすくすく育つようになって驚いています。以前は毎日必ず、かん水チューブで地面がビショビショになるまで水をやっていたのですが。

 耕起しないでいると、土の中で間隙がどんどん増えて、酸素も行き渡り、植物は可能な限り根を伸ばします。おそらく、畑全体に生物ネットワークが張り巡らされていて、水や肥料、微量要素などが根と微生物の間で交換され、運搬されているのでしょう。

ササゲ大当たり、トウガン大豊作

 近年の温暖化で、暑さに弱いトマトは2週間早く枯れてしまうので、その後作で暑さに強いマメ科の緑肥を探していました。2~5月収穫のトマトが終わってから、今まで自家用で栽培していたササゲを直播。大当たり! 見たこともないジャングルになり、毎日、鎌やハサミでつるを整理しないとすぐに通路がふさがるほどでした。水も肥料もやっていません。緑肥のつもりでしたが、9月に花がたくさん咲き、10月から完熟豆を摘みとっています。

 もう一つ、大豊作だったのがトウガンです。畑に生ゴミをまいたら勝手に芽生えて、自分でハウスの屋根によじ登り、つるを20mほど伸ばしています。肥料は最初の頃、励ましにお椀2杯分のナタネ油粕を与えて終わり。なんと、1株から250個以上収穫できました! こんなの初めてです。

生物多様性で病害虫激減

 同じ畑に複数の作物を植える「混植」にも手応えを感じています。収穫時期が揃わず、植え付け時期もバラバラなので、化学農薬散布なし、耕起なしにしたら、あっとビックリ。病害虫が激減したのです。初めは、ラッキーな偶然だと思っていたのですが、継続性があり、わあ、やった!

 害虫は、全滅はしませんが、天敵がぐっと数を減らしてくれます。意外なのは、ヨトウムシの被害がほとんど見られなくなったことです。クモが増え、メジロやウグイスなどの小鳥たちがパトロール。卵から孵った若齢幼虫を片っ端から食べているようです。

 生物多様性を高めると、一種類の生物のみが繁栄、増殖できなくなるのだと思います。生態系の幅が広がれば、異常気象で増える病害虫もある程度は乗り越えられます。