「日本一小さい農家」

出典:diamond
 

リピーターが増える
発送時の「このひと手間」

 私の農園はきていただくと、みなさん「本当に小さい」と声をあげます。
 農地面積が通常農家の10分の1以下、30アールの面積(だいたいサッカーコートの半分くらい)で、自他ともに認める「日本一小さい専業農家」(本書では「日本一小さい農家」)です。

 バーテンダーを3年勤め、その後オーストラリアへ1年の遊学を経て、ビジネスホテルチェーンの支配人業に就きました。
 しかし、あまりの「ノルマ主義」「前年対比主義」に身も心も疲れ果て、逃げ帰るように、郷里の石川県に帰ってきた次第です。

 サラリーマンとしてはダメダメでしたが、そこから一念発起。
 サービス業の視点で見ると、ビジネスチャンスがあるのではと考え、農家に。
 そんな「知識ゼロ」で起農したのが1999年。

 ただでさえ厳しいと言われる農業。まして農業技術もない、右も左もわからない状況で普通にやっていては、ひとたまりもありません。

 そこで、最初に始めたのが、農業の常識を疑うこと。
 今の農業の常識と言えば……

  • 「農業は儲からない」
  • 「農業を始めるには、農機具・設備費など莫大な資金が必要」
  • 「補助金がないと成り立たない」
  • 「農業技術を習得するには時間がかかる」
  • 「広い土地がないと無理」
  • 「人手が必要」
  • 「天候により収入が不安定」
  • 「自然相手なので休みがない」

 と大変なことだらけ。
 そんな常識の中でも、まっ先に疑ったのが、農業で売上を上げるには大規模化しないと無理ということ。

 そこで小さくても、いや小さいからこそできる農業があるのでは?と思って生まれたのが、スモールメリットを活かす農業です。

 もちろん、小さいだけではなく、サービス業についていた経験を活かしての加工、直売も手がけ、また、ネット活用など、今だからこそできる農業を心がけました。

 その結果……

  • “借金なし”……起農資金を含め一切借金なし
  • “補助金なし”……行政に一切頼らなくてもやっていける仕組み
  • “農薬なし”……当初から農薬を使わない農法を実践
  • “肥料なし”……2012年から無肥料栽培(「炭素循環農法」)に切替え
  • “ロスなし”……予約販売、加工で野菜のロス(廃棄)がほぼない仕組み
  • “大農地なし”……通常の10分の1以下の耕地面積の「日本一小さい専業農家」
  • “高額機械なし”……3万円で購入した中古の農機具がメインプレーヤー
  • “宣伝費なし”……これまで一度も有料広告を出したことがない

 と、まさに常識はずれなことに。
 また、通常1000万円くらいはかかるといわれる初期投資が143万円ですみました。

 現在、労働力は家族2人(野菜の栽培は私、妻がケーキ屋漬物などの加工を担当、子どもは3人)だけで、年間売上1200万円、所得(利益)600万円。
 フェイスブックなどで、お客さんとダイレクトにつながりながら、日々充実した毎日を送っています。

 今、風来には、農林水産省などの農業行政にたずさわる方から、農家、一般の方まで、全国から視察団が訪れます。

 なぜ、注目されているのか?
 それは、知識ゼロ、経験ゼロで始めた「脱サラ農家」が、
 家族みんな笑顔でそこそこの収入を地方で幸せに稼いでいる。
 その秘訣を知りたいようなのです。

 この「幸せに稼いでいる」というのがポイントではないかと思っています。

 現在、ビジネスパーソンを取り巻く社会情勢はますます厳しさが増しています。
 非正規雇用の増大、東芝、シャープのような大企業であっても経営不振に陥る時代。
 社会保障費も減額され、年金もどれだけもらえるかわからないなど先行き不安だらけです。

 経験もない、資金もない、大きな農地もない、販売ルートもない――そんな“ないないづくし”の元会社員が、ゼロから起農したからこそ、固定概念にとらわれず、農にチャンスを感じられました。

 現在会社員で農にあこがれはあるが、敷居が高いと感じている方、
 農家になったけど、なかなかうまくいっていない方、
 新たなビジネスの芽を探している方、
 また、定年後に不安をかかえている方に、
『農で1200万円!』が少しでもお役に立てればと思っています。

 実際、風来に話を聞きにきて起農している人が全国にいます。
 ただし、風来では、長期研修を受け入れたことがありません。

 どういう意味かというと、技術ではなく考え方次第で、小さくても農業で稼ぐことができるということです。
 もちろん、技術も大切ですが、技術が最優先するのなら、“技術ゼロ”から始めた私が今こうしてやっていられるはずがありません。

 新規就農時の研修で車を路肩に何回も落とし”脱輪王”の異名をつけられ、何度も「落第!」と言われた私でもここまでやってこれました。
 そんなこれまで培ってきた考え方、気づいたこと、実践してきたことを、新規就農者や農家仲間の事例も併せて、余すところなく『農で1200万円!』で紹介させていただきました。

 小さいからこそ幸せになれるミニマム主義を提唱。地域とお客さんとのふれあいを大切に、身の丈サイズで家族みんなが明るく幸せになる農業を行う。