奇跡のパインを生んだ”道法スタイル”の非常識

出典:Ppresident Online

 

「肥料なしで糖度12.8→18.8度」
奇跡のパインを生んだ”道法スタイル”

 野菜や果物を育てるには肥料が必要だといわれる。だが枝を縛って、垂直に立てれば、肥料を与えなくても、収穫量や味が劇的によくなるという栽培法がある。この常識破りの栽培法「道法スタイル」を考案した道法正徳さんは「逆転の発想です」と話す——。

収穫激増、野菜・果実の枝を「垂直に立てる」
常識破りの“道法スタイル”

 今年6月、自分史上最高においしいパイナップルに出会った。

 台湾のパイナップルだ。完熟していて香りがよく、甘みがとても強い。そしてただ甘いだけでなく、パイナップル特有の、ツンツンした刺激もほとんど感じない。味が調っていて、食べやすいのだ。

 ラベルにおじさんの顔がついている。「Mr.DOHO」……ミスター・ドホ? おじさんが気になり、「Mr.DOHO パイナップル」でググってみた。道法正徳(どうほう・まさのり)さんという方らしい。その道法氏が監修した家庭菜園の本が出ているというので、書店に探しに行ってみた。

『道法スタイル 野菜の垂直仕立て栽培』(道法正徳:監修/学研プラス)は、家庭菜園のガイド本コーナーで、ひときわ異彩を放っていた。

 肥料も農薬も使わず、野菜の枝を「縛って」「垂直に立てる」ことで植物ホルモンを活性化し、収穫量と味をよくするという、新発想の栽培法だという。もともと家庭菜園誌『野菜だより』の連載記事のひとつにすぎなかったが、連載が開始されるや、そのシンプルな理論と実践のしやすさ、そして確かな実績が読者の大きな反響を呼び、連載終了後に書籍化された。

 考案者の道法正徳氏(67)は、JA広島果実連の技術指導員としてキャリアをスタートさせた、果樹や野菜の自然栽培のプロである。現在は独立し、広島を拠点に国内外の現場を飛び回る道法氏に話を聞いた。

逆転の発想から生まれた革命的な栽培法

「もともとは、40年ほど前に広島でミカン栽培の技術指導員をしていた時、ミカン農家への指導がうまくいかなかったのがきっかけでした」

 ミカンなどの果樹栽培では、「隔年結果」といわれる、1年おきに豊作と不作が繰り返される現象が、長年の課題だった。対策としては「肥料や堆肥をやる」ことが不可欠とされ、枝の剪定せんていは「立ち枝(真上に伸びる枝)を切って、横枝(横に伸びる枝)を残し、日当たりや風通しをよくする」ことが正しいとされてきた。

 地域の農業を支える技術指導員として、隔年結果のままの状態では、生活がかかっているミカン農家に申し訳ない。そこで4年目に、全て逆のことをやってみようと思いついた。

 まずは剪定の逆バージョン。「立ち枝を切らない」のである。立ち枝には、元気な花が咲き発芽も起こる傾向にある。植物の特性上、発芽した分だけ根っこも出る仕組みなのだ。それに対して横枝は、弱い花が多く咲き発芽しない。そして発芽しないので根っこも出ない。それが隔年結果の理由のひとつになっていた。

 次に、ミカン苗木の育て方を見直した。それまでは、3本の新芽を「斜めに」誘引するのが常識とされていた。それを、先輩のアドバイスもあり「新芽を5本にして、先端を『上に』向けてみよう」という事になった。そこに肥料をやりましょうと指導した。

「完全な失敗」が新発想のきっかけになった

 まずは剪定の逆バージョン。「立ち枝を切らない」のである。立ち枝には、元気な花が咲き発芽も起こる傾向にある。植物の特性上、発芽した分だけ根っこも出る仕組みなのだ。それに対して横枝は、弱い花が多く咲き発芽しない。そして発芽しないので根っこも出ない。それが隔年結果の理由のひとつになっていた。

 次に、ミカン苗木の育て方を見直した。それまでは、3本の新芽を「斜めに」誘引するのが常識とされていた。それを、先輩のアドバイスもあり「新芽を5本にして、先端を『上に』向けてみよう」という事になった。そこに肥料をやりましょうと指導した。

 ところが、指導した農家の中に1人だけ、言うことを聞かずに新芽だけはなく枝ごと垂直に縛った人がいた。当然、葉っぱ同士は密着し、風通しも日当たりも悪くなる。そればかりか、「手間がかかるから」と、肥料もやらなかった。

 しかし、それが驚きの結果をもたらした。その人の苗木が一番よく育ち、味も最高のミカンがとれたのだ。この実体験をきっかけに、道法氏は新発想での果樹と野菜の栽培法を研究することになる。

1本あたりの収穫量30キロだったブドウが
道法スタイルでは52キロに!

 そして植物ホルモンのバランスを整えるために重要なのが、野菜の「仕立て方」だ。

 基本は「枝を垂直に立てる」だが、スイカやメロンなど果実が大きくて垂直にするのが厳しいものはツルを束ねて2本の「棒」で挟んで一方向に伸ばしたり、枝をひもで吊り下げたりする。ただ、道具はいずれも支柱や麻ひもといったホームセンターで調達可能なもので、特別なものは何もいらないし、仕立てる方法も至ってシンプル。いろいろな野菜が上を向いて垂直に立てられている様子はとてもユニークだ。

 土づくりも特徴的だ。肥料も有機物の堆肥もやらないし、地中にある石も取り除かない。むしろ石は、根を刺激して植物ホルモンの「エチレン」を増やしてくれるため、積極投入したほうがよいそうだ。

 そんな栽培法を提唱する道法氏のもとには、国内外から講演や技術指導の依頼が舞い込む。「家庭菜園を始めたい」というお手軽なものから、農家や大学、JAや地方自治体まで、教えを求める顔ぶれも幅広い。

 山梨大学では、技術指導だけでなく、ブドウ栽培の研究も支援した。学内の畑で、同条件の苗木を通常の栽培法と「道法スタイル」の2パターンで栽培し比較したところ、通常の栽培法のブドウの収穫量が1本あたり30キロだったのに対して、道法スタイルのブドウは52キロもあったという。