トリプルフェイスのメロン農家
甘くみずみずしい味わいで人気を集める、鹿児島県南九州市川辺町の「川辺メロン」。かつては多くの生産者が手掛けてきた地域の特産品だったが、栽培にかかる労力の大きさなどから、多くの生産者が撤退。現在は13戸が手掛けるのみで、地域の直売所でもわずか1カ月ほどしか出回らない「幻のメロン」だ。
その数少ない生産者の一人が、高校教師として勤務する傍ら、メロン農家としても活動する通山きみこさん。
— 背中を押した、地域住民の協力 —
甘くてジューシー、まるで天使の肌のようなやわらかさの“岡山白桃”を贅沢にまるごと1個使用!みずみずしい桃の中には生クリームで軽やかに仕上げたカスタードクリームをぎゅっと。隠し味に練乳を加えコクがアップした、くちどけの良いミルキークリームと合わせました。今が旬の特別なパンケーキです。通山さんのもう一つの顔が、メロン農家だ。手掛けるのは、作り手がきわめて少なく、市場ではほとんど流通しない「川辺メロン」。ただでさえ多忙で知られる高校教師の仕事に加え、温度管理や水管理に手が掛かるメロンを栽培期間中農薬不使用の方法で育てる。これを土地もコネも農業経験もない状態から、国やJA の補助金を一切受けずに始めたというから驚きだ。
「毎年6月になると、川辺メロンを栽培していた親戚から送られてくるのが楽しみでした。そんな親戚も70代に差し掛かり、『いつまで作れるか分からんど』とぽろっとこぼしたこの一言が全ての始まりです。そんな中、親戚から技術を継承するなら今しかないと、まずは夫が栽培方法を学び始めました。」
親戚から栽培方法を学びながら、まずは自宅近くの畑で、家族や親戚で食べるだけの量を露地栽培で作り始めた。高校教師としての勤務時間は8時20分から17時過ぎがコアタイム。平日は3~4コマの授業や担任業務をこなし、退勤後は夏場で20時過ぎまで、冬でも18時半ごろまで、夫婦で農作業に当たっている。
— 補助金が下りない。「ならば自己資金で」と一念発起 —
現在は主に高校教師とメロン農家のダブルワークをする通山さんだが、当初は教師を辞め、夫と一緒に新規就農するつもりだった。そうしなかった理由に、自身が望む農業と行政から求められる農業のギャップがあったと通山さんは振り返る。
就農に際して、当時の青年就農給付金(現・農業次世代人材投資事業)申請のため、経営計画書を持って地域振興局や市役所に赴いたが、そこでの見解はいずれも「メロンはもうからないからやめた方がいい」「栽培品目がメロン一つだと申請は通らない」というものだった。
「(栽培品目は)メロンじゃないほうがいいのか、とブレたこともありましたが、地域の方々の後押しもあって『メロンを守りたくて農業を始めるのだから、作れなければ意味がない』と思い直しました。補助金が受けられないのならばと、教師を続けながら、自己資金でメロンのハウス栽培を始めることにしました」
— ダブルワークを可能にした、DIYのハウス自動化 —
メロン栽培が「手が掛かる」とされてきた最大の理由が温度管理の大変さだ。「例えば、メロン栽培では雨が降ったらハウスを閉め、暑くなったら逆に開けてあげる必要があるため、一度植えてしまったら、もうどこにも出かけられません」(通山さん)
教師として勤務する間は、当然ながら畑に顔を出すことができない。そのため、ハウスの温度管理の自動化は避けられなかったが、「導入するにしても、値段を考えたら厳しい。大きなビニールハウス用のシステムはあったとて、トンネルハウスの規模で自動化するシステム自体、私が探す限りありませんでした」と当時を振り返る。
ここで手を差し伸べてくれたのも、地域住民だった。「日曜大工が趣味の郵便局長さんが『(ハウスの自動化は)やったことはないけど作ってみよう』と一緒になって考えてくれたんです」
試行錯誤の末に完成したのが、トンネルハウス内の温度計が25度以上になると、巻き上げパイプがビニールを巻き上げ、それ以下になると巻き上げたビニールを戻すシステム。
経費はホームセンターやAmazonで購入した材料費の約2万円のみ。気温の高い時期や梅雨の時期でも、このシステムにハウスの管理を任せて、気兼ねなく学校に出勤することができている。
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