「コメの転売はやめて」「土地はあまってるんだから、みんなが作ればいい」

出典:集英社オンライン

今も20キロ5000円で販売する無農薬栽培

 「農薬は使わないことが当たり前だと思ってやってきた」
 静岡県浜松市で無農薬のコメ農家を営む黒柳繁夫(76)さんは、若い頃からコメ作りに携わり、無農薬栽培歴は30年になるという。そんな黒柳さんが試行錯誤の中で辿り着いたのは、昔ながらの栽培法だったと話す。

「僕は若い頃から田んぼには関わってきましたが、30年ほど前に知り合いから請われて、土地を借りてコメ作りを手伝うことになりました。やがて仲間はどんどんやめていき、いつの間にか自分1人になっていました。ずっと無農薬でやってきましたね。

 いろいろと試行錯誤し、一番お金のかからない、年寄りでも誰でもやれる、そういう農法なんですが、後から見てみれば、それは昔の小さい農家がやっていたシステムだったんです。

 ウチではバッテリーのない小さな耕運機で田んぼをきれいにおこして、柱みたいな角材を引っ張っていくんです。耕した土を水平にして、そこへ機械で苗を植えていく。

 水のレベルを均等にするには腕も必要なのでなかなか大変です。夏場には草取りもするのでそれがきついです。

 草取りは手作業じゃないと無理なところもあるが、機械でもやります。この機械で、水と一緒に攪拌して空気を田んぼに入れてあげるのがポイントです。そうすると、3~4日で稲の色が変わり、より元気になります。

 今のコメ作りは大型コンバインと大型乾燥機などを使う方法が多いですが、僕らはエネルギーはほとんど使いません。壊れた農具を直して使っているからお金もそんなにかからない。収穫量も自分の体が動く範囲で十分じゃないかと思いやっています」

 無農薬でのコメ栽培を30年間続けてきたと話す黒柳さん。一体なぜ、そこまで無農薬にこだわるのだろうか。

「僕は絶対に農薬は使いたくないと思っています。他の生き物に影響するし、農薬は使わないことが当たり前だと思ってやってきました。

 稲は太陽光で育つ、害虫などはそれほど気にしていません。反収(1反あたりの収穫量)が5俵(300kg)もあれば万歳です。なかには無農薬で10俵くらい穫る人もいる。とはいえ農薬を使えば20何俵は穫れるでしょうけどね…」

 無農薬にこだわり収穫量も減るなか、一番の喜びはなんなのだろうか。

「前年より収穫量が多いと『よかったな』と思うけど、一般的な農家ほど獲れるわけではない。それでもやはり、おいしいコメができたときは嬉しいですね。僕らは籾の付いたままストックして、注文が来てから籾すりをして取ります。あとは玄米にするのか精米にするのかはお客さんの自由でいいと感じています。

 田んぼが中心で毎日生活してますから、しょっちゅう田んぼにいます。今は藁をカッターで切る作業をしています。切った藁を田んぼに撒いて土作りをして、そのあと綺麗に起こすんです。感覚的にはのんびりしている時期かもしれません」

 無農薬栽培を始めた頃は苦い経験もしたそうだが、信念を貫き続けた今では理解も広がったという。

「無農薬でやっていて、最初は近所の人に嫌な顔をされました。『みんなと協調しない人』というふうに見られてしまった。でも少しずつ周囲もわかってくれてきて、今は悪く思う人はいません。仲良くやらせてもらってます」