あくなき探究心が生む「新高梨」

出典:高知まるごとネット

「たこ足せん定技法」で革命を起こす

 高知県を代表する梨、新高梨。重さ1kg、直径20cmを超えることもある大玉品種で、糖度も高いのが特徴です。瑞々しくシャキシャキとした歯応え、口いっぱいに広がる甘い果汁、鼻を抜ける芳醇な香り。大きさはもちろん、味も美味しいことから「梨の王」と呼ばれています。

 新高梨の主な産地の一つが、高知市の針木地区。土質の良さと昼夜の適度な寒暖差により、糖度の高い新高梨を栽培できるといいます。現在、針木地区には36の新高梨農家さんがあるそうですが、その中の一つが今回訪れた川渕果樹園です。重さ1.5〜2kg、糖度約15%と、特に大きく、甘い新高梨を安定的に生産していることから、梨づくりの名人として全国に知られています。このような生産が可能なのは「梨の木と対話して、それまでにない栽培技術を開発・導入してきたから」と代表の川渕良範さんはおっしゃいます。

 川渕果樹園が始まったのは今から76年前のこと。川渕さんの誕生を機に、父が針木に梨園を開設したのだ。それから18年の歳月が経過し、高校を卒業した川渕さんは父と共に川渕果樹園で梨を栽培するようになる。当時、川渕さんの父は針木で一番の梨の生産者になりたいと願う一方で、梨づくりの難しさに悩んでもいたという。「梨づくりは難しい。毎年が1年生だから」と漏らす父。そんな父に対し「1年生は2年生に、2年生は3年生になるべき」と川渕さんは思ったそう。どこが良くて、どこが悪かったのか、しっかりと原因を追究し、仮説検証する。その積み重ねにより生産者として成長していくべきだと考え、実行することにしたのだ。

 川渕さんが中果枝と呼ぶ、長果枝と短果枝の間の長さの果枝は、毎年先端が伸びることから3、4年は使うことができる。その結果、木を元気な状態に保ち、実の収量も大幅に増加できることが分かったのだ。この結果を受け、3年目には園内の新高梨全てを中果枝による栽培に変更。他の仮説が成功したこともあって収量はそれまでの約3倍に増加し、川渕さんの父は針木で一番の梨の生産者に。そしていつしか全国でも梨づくりの名人と呼ばれるようになっていった。

 一般的な栽培方法では7年目で約10個、10年目でやっと約100個の実を収穫できるようになる。ところが「たこ足せん定技法」では3年目から収穫可能。5年目には約100個、7年目にはなんと約270個もの実が収穫できるという。

 これだけでも梨農家さんにとっては衝撃的な栽培方法と言えるが、「たこ足せん定技法」にはさらに驚きのポイントがある。梨だけでなく林檎、梅、柿、蜜柑など、他の果樹にも応用可能なのだ。これは多くの果樹農家さんにとって、朗報と言えるだろう。