出典:現代農業WEB
もやしのように細くて真っ黄色――傍から見ると育苗に大失敗したようだが、新保善光さんにとってはこれがねらい通りの苗。育苗コストや時間をどこまで減らせるかという挑戦の成果でもある。
「春の育苗にしかハウスは使わない。無駄ですよね。ビニール代も高くなってきたし……。それに苗並べってすごく大変じゃないですか。やらずにすむことは、なるべくしたくなくて」
育苗方法はごくごく単純。播種後、倉庫内に苗箱を積み重ね、無加温で出芽させる。出芽後に苗運び用の棚に並べたら、苗取り板で取れるようになるまで、かん水もせずにほったらかすだけだ。「これ以上の省力化はできないんじゃないか」の言葉通り、ほとんどやることがない。
新保さんはこの苗を「弱苗」と呼ぶ。たしかに緑色のずんぐり健苗に比べ、ずいぶん弱そうな見た目だ。
とはいえ、作業上のメリットは大きい。育苗器を使う手間やお金がかからないし、厚く播くから使う箱数も少なくてすむ。ハウスも以前は3棟あったが、育苗用のものは必要なくなった。春作業に余裕ができたので、家族がやっている直売野菜や、自然栽培米づくりを手伝っているそうだ。
しかも新保さんによれば、生育が進みにくいから長く置いておけるし、植えたらすぐに活着・緑化してどんどん分けつしていくという。そう聞くと、全然弱い苗ではなさそうな……。
さっそく倉庫の中に入ると、棚には弱苗がズラリ。外側は窓などからの光に当たって多少緑になっているが、中の苗は本当に真っ黄色だ。
こう見るとまったく新しい技術に思えるこの育苗方法、じつは昔からのやり方が元になっている。「乳苗密播栽培」という稚苗より若い本葉1~2葉の苗を植える方法で、一時期は全国で普及されていた。加温して出芽させた後、そのまま育苗器内で黄色い苗に育てる。育苗日数が約1週間と大幅に短いうえ、種モミに胚乳が多く残るので活着しやすく、分けつ力も強いそうだ。
新保さんは長くこの方法に取り組んできた一方で、不自由さも感じていたという。たしかに加温するとねらった日数で確実に出芽するが、その後伸びすぎて胚乳がなくなってしまったり、涼しい場所に苗を移す必要があったりするからだ。
そこで、10年ほど前に無加温で出芽させて育ててみたのが弱苗の始まり。加温しない分生育が遅くなり、播種後20日程度までは棚に置きっぱなしでよくなった。新保さんの管理する田んぼは11haあるが、3回播種した苗を1カ月半ほどかけて植えていけるという。
新保さんが床土に使っているのはロックウールマットだ。乳苗栽培にも使われる軽量培土で、葉齢が若い弱苗の根がらみをサポートしてくれる。ここに乾モミで200g以上播けば弱苗でもマット強度の問題はなく、普通の田植え機で植えられる。苗丈は普通苗と同じぐらいあるので、欠株や浮き苗も出ない。除草剤も普通の使い方でオーケーだ。