出典:マイナビ農業
「山選り(やまより)収穫」
温州(うんしゅう)みかんの生産日本一を誇る和歌山県、中でも有田(ありだ)地域は有数の温州みかんの産地である。2025年に創業50周年を迎える有田の「マルケンみかん」は、28戸の生産者がみかん農家の悩みや課題を共同で解決し、次世代につないでいる。しかし、少し前までは「じいちゃん、ばあちゃんや子ども達まで家族全員で夜中まで働かなければ終わらないような仕事なんて、継がせられない」と嘆いていた。ネックとなっていたのは、繁忙期の家庭選別である。朝から収穫し、選果場に持っていく前に家庭で選別をするのが常識だったからだ。長年当たり前のように続いていた家庭選別を廃止し、その結果、後継者や新規就農者も増えた。
和歌山県有田川町賢(かしこ)地区は紀伊国屋文左衛門が嵐をついて江戸にみかんを送ったと伝えられる地域である。みかん山には、江戸時代に先祖が積んだという石垣が残されており、2023年に世界農業遺産への認定申請が承認された「有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム」地域だ。
永石さんは会社勤めを経験後、35歳の時に家業のみかん農家を継いだ。
「このままだと自分の代で終わってしまう。確実に続かない。もっと効率良くできないのかと、常々思っていました」。自分の代で終わってしまうと思った大きな理由は、収穫時期の忙しさだった。早朝から日が落ちるまで収穫作業をし、深夜まで家族総出で選別作業をするのが当たり前だった。収穫したみかんを選果場に持っていく前に選別し、1級、2級、加工品、小玉に選別しなければならないという時間も手間も掛かる作業を家庭ごとに担っていたのだ。
「家族総出なので、親子げんかになることも多かったです。収穫期に家族が協力して、時には夜なべになることもみかん農家では当たり前で常識でしたが、それは世間的には非常識。改善していかないと、後に続くものが居なくなると危惧していましたが、最初は農業経験も浅かったので、なかなか意見を受け入れてもらえませんでした」
「家族選別を廃止するためには、収穫時に偏っていた作業の負担を分散させなければなりません。収穫前に何度も樹上で選別をすることで、収穫後の選別の手間や労力を省く方法です。山で選別するので『山選り収穫』と言っています」
この「山選り収穫」という呼び方は自然に生まれた造語である。このやり方は収穫までの作業量と選果場の仕事は増えるが後継者不足のネックとなっていた家庭選別を無くすことができるはず。「山選り収穫」は2012年の試験販売を経て、2013年から本格的に全面導入し、家庭選別の作業を廃止に踏み切ることができた。
「山選り収穫を発案してから実現するまで12年掛かりました」と永石さん。2023年には手順の標準化を目的に商標登録している。
一般的なみかん農家も花から小さな実がなると摘果する樹上選別をしているが、頻度は1回から2回程度である。それに対し山選り収穫は樹上選別を何度も行うのが特徴だ。5月の摘蕾に始まり11月上旬まで何度も摘果作業を繰り返す。規格に満たないみかんは、この時点で落としていく。更に加工品用は収穫時点で分けておく。マルケンみかんでは、加工品としてストレートの『うんしゅうみかんジュース』を販売している。
「収穫時には葉が20枚から25枚に1個のみかんのみを残してあとは落とします」
何度も摘果作業をすることで出荷できないみかんは山で全て落とし切っているので、樹上完熟させたみかんを収穫するときは、ほとんど選別が終了している。
みかん栽培には、収穫量が多い”表年”と、収穫量が落ち込む”裏年”というものがあるが、永石さんは収穫量と品質を安定させるため、1本の木で半分ずつ成らせるように工夫している。そのため、マルケンみかんには表年も裏年も無いというから驚きだ。