秋田に住んでいたころ、雪解けとともに秋田の人たちがそわそわし始めるのを感じていました。山菜を採りに行く話や山菜を食べた話や、だれそれが採ってきたのでおすそ分けします、といった話題があちこちで飛び交います。
わたしは子供の頃、わらびが大好きで、毎年わらびの季節になると茹でておひたしにしてもらうのを楽しみにしていました。重曹や米ぬかであく取りをしなければいけないのでちょっと面倒なんですが、大きな束をきっちりと切って小鉢に山のように積んだのをたっぷりのかつお節とおしょうゆで、もりもり食べていました。
この季節には、よく農家のおかあさんたちが採った山菜を売って歩く姿もみられました。
でも東京ではあまり売ってないし、自分で料理したこともなかったので、ほとんど食べることもありませんでした。でも最近、秋田に帰ったり、秋田の人と会う機会が増え、春になると秋田の人たちの間にただよっていたそわそわ感を思い出しました。秋田の、それも山の方に行くと、山菜こそが春の使者です。
毎年、最初に芽を出すのがふきのとう。3月下旬から4月半ばが旬。そのあと4月後半からたらのめ、こしあぶらなどが、こごみが出てきて、もう少しするとあいこ、しどけ、みやまいらくさ、やまうどなどが一斉に出てきます。雪の下で身を縮めていた植物たちが一斉に目を覚まし、背筋を伸ばすように。
田中さんによると、今年の山菜の生育は、雪の影響はなく平年並みだそうです。でも雪が多い年は雪解け水でさらにおいしくなるそうです。
「山の名人」たちはだいたい朝、山菜を採りに行くそうです。採った山菜は田中さんの事務所まで持ってきてもらって、午後にはよくチェックして洗えるものは洗い、いろんな注意書き(山のものなので虫も一緒に入っていたりしますとか)を入れて箱詰めして、午後4時ぐらいに宅配便の人に集荷に来てもらって、冷蔵便で送るのだそうです。
「甘~い!」
田中さんによると、たらのめなど人気商品は山の宅配便が2月に受注を開始すると1週間ぐらいで予約がいっぱいになってしまうそうです。そう、天然の山菜は、需要に応じて生産量を増やすわけにはいかないのですよ。
でもがっかりしないでください。根まがりだけやわらび、みずなどはまだ大丈夫だそうです。生の根まがりだけはやはり香りも歯ごたえも最高です。わたしはお味噌汁が好きでした。
山菜で面倒なのはあく抜き。東京・恵比寿にある秋田の日本酒をフランス料理で飲ませる「秋田純米酒処」でフレンチのシェフをされている末長直健さんが、秋田の山菜はあくが強いのですが、あくを抜きすぎると風味がなくなってしまうので、ちょうどいいあくぬき度合いを探るのに苦労したそうです。
でも天ぷらにはあく抜きが必要ありません。ふきのとうもたらのめもそのままでOK! ちょっぴり楽な上、さわやかな香りと苦みを味わうのに天ぷらは最高の料理方法です。ああ、食べた~い!