世界初!コムギとトウモロコシの雑種植物の創生

これらが持つ優良遺伝資源を相互に利用することが出来る

 コムギとトウモロコシは世界の主要作物ですが、異なる亜科に属していることから交雑することができず、それらが持つ優良遺伝資源を相互に利用することは出来ませんでした。
 東京都立大学大学院理学研究科の恩田伸乃佳(大学院生)、佐藤綾研究員、Nowroz Farzana(大学院生)、岡本龍史教授、インドネシア大学のTety Maryenti助教(当時東京都立大学大学院生)、カラバ大学のOffiong Ukpong Edet准教授(当時鳥取大学乾燥地研究センター研究員)、鳥取大学国際乾燥地研究教育機構/乾燥地研究センター/染色体工学研究センターの石井孝佳准教授、および神戸大学大学院農学研究科の妻鹿良亮准教授(2025年7月まで山口大学准教授)は、コムギ−トウモロコシ間の交雑不全1を乗り越え、世界で初めてコムギとトウモロコシの交雑植物の作出に成功しました。

 三大穀物5であるコムギ、トウモロコシ、イネは世界の穀物生産の約9割を占めていますが、その理由として、これら作物の農業上の遺伝的特性が他の植物に比べて特に秀でていることが挙げられます。しかしながら、これら3種の作物はすべてイネ科植物ですが、異なる亜科に属していることから交雑が非常に困難であり、それらが持つ優れた遺伝資源を相互に利用することは出来ませんでした。

 一方で、近年の気候変動や人口増加に目を向けると、乾燥・高温化によりコムギの輸出大国であったオーストラリアがコムギ輸入国に転じ、また、中進国・発展途上国などでは人口増・食生活変化によって穀物需要が著しく増加しており、人類の食料生産はこれまでにない危機に直面しているといっても過言ではありません。それゆえ、コムギ、トウモロコシ、イネなどの間の交雑不全を乗り越え、新たな交雑植物を作出する技術の確立が求められていました。特に、トウモロコシはC4型光合成を行うことから高い乾燥耐性や高温耐性をもち、また旺盛なバイオマス産生能を持っています。

 「トウモロコシ卵細胞、トウモロコシ精細胞、コムギ卵細胞、コムギ精細胞」を融合させた交雑受精卵を発生・再分化させることで、9系統のトウモロコシコムギ植物体を作出することに成功し、種子を得ることもできました。

 本研究により、これまで不可能であったコムギとトウモロコシの雑種作成が可能となりました。さらに当該交雑植物のゲノム解析により、トウモロコシコムギは核ゲノムとしてはコムギゲノムを、ミトコンドリアゲノムとしてはコムギに加えてトウモロコシゲノムを持つこと、すなわち、トウモロコシコムギはトウモロコシのミトコンドリアを持つ新たなコムギ(細胞質雑種コムギ・Cybridコムギ)であることが明らかにされました。

 また、導入されたトウモロコシのミトコンドリアは有性生殖を経て次世代に安定的に伝達されていました。これらの成果は、世界で初めてコムギにC4型光合成植物であるトウモロコシの遺伝子資源を導入できたことを示したものです。

 今回、コムギとトウモロコシの遺伝資源の相互利用が可能であることが示され、新たな優良形質を持つ新作物の作出に繋がるプラットフォームとなることが期待されます。また、顕微授精法は配偶子の単離が可能な植物種に適応可能であることから、コムギ、トウモロコシ、イネにとどまらず、パールミレット、ソルガム、サトウキビなどの多くの有用植物間の雑種植物の作出も視野に入ってきます。現在、我々の研究グループでは、パールミレットコムギやソルガムコムギの作出を進めています。

 
出典:東京都立大学