わたしの自然農法

出典:自然に学ぶ 福津農園

畑の小さい水循環
大雨も乾燥も大丈夫

 ドシャ降りの大粒の雨が来ても、梅雨の雨が降り続いても、たとえ播種直後でも、傾斜のきつい福津農園の野菜畑から濁水が流出するのを見たことがありません。
 逆に2013年のように梅雨からお盆にかけて例年の1割ぐらいしか雨のない猛暑の中でも、作物たちは無給水で元気にがんばりました。水をほしがるサトイモ、ナス、キュウリなどの作物にも、秋冬野菜も同様に水やりしません。何故か!?!不耕起草生栽培により、しっかりした「畑の小さい水循環」が機能するように期待して、準備しているからです。

雨水を吸い込む働き

 植物の茎葉等で土壌表面が被われているところに、不耕起で播種または苗を定植するので、雨滴の衝撃土が跳ね上がることもなく、雨水は空隙の多い土壌にゆっくり吸い込まれていきます。もし吸水速度を上回る強い雨となっても、落ち葉や腐葉土の間を穏やかに流れ下り、草の根のネットワークが土が流れ出すのを防ぎ雨水が濁りません(写真3)。土の表面に集積するバイオマスは優れた断熱材であり、保湿材です。同時に虫などの食料であり、すみかでもあります。ミミズ等の虫たちの活動は土の団粒化を雨水を土中に引き込む導管をつくります。
 作物の生育中も草マルチが有効に働きます。草の葉は土への太陽光の直射を防ぎ、かつ春から夏にかけては地際の空気を冷やし、調湿します。
 作物は盛んな光合成で取り込んだ太陽光エネルギーの転産物を根の伸長に使ったり、根の周りに共生する微生物たちに分けあたえます。特定の微生物群はそのエネルギーを駆使して、作物よりも強い能力で土中の水や栄養を集めて作物にお返しします。
 そして圧巻は高温乾燥に強いオクラや大豆のような夏作物や草たちの根の機能にあります。植物が生長中は土壌の水を集め地上部に送り出す役目を担います。死後は速やかにトビムシやササラダニ等の虫や微生物の餌となります。

小さいダムと共存の礼儀

 オクラや大豆のような夏作物が枯れると、残った太い直根跡やそれに接続する細根跡水道管となって、生前のお礼をするように地中深くまで穏やかに雨水を配ります。この根穴がドシャ降りで地表面に溢れる雨水をダムのように受け止めます。
 また、地表部に供給される落ち葉や枯れ草団粒構造を成す表土が根跡への土砂の流入を防ぎ、ダム機能を長持ちさせます。畑の作物と共存する雑草の根と根跡も大なり小なり同様の機能を発揮します。
 個々に見るとミクロのダム機能ですが、畑に無数に存在し目に見える大きな働きとなります。根跡ダムは一年周期で通気通水して、少しだけ子孫となる作物や雑草の生育環境を良好にしながら、再び元の土壌に戻ります。
 こうして畑の土は植物(草)に耕され豊かな農業生産を支える土壌へと成長します。植物の葉や根の一生は雨水を土壌中に浸透させ保水する理想的な配水機能を支えていて、有機物となって土に還るまで、一貫してその役目を全うします。
 私はこうした畑の植物が役目を全うすることも「共存の礼儀」と呼びます。不耕起草生だからこそ完遂可能な偉大な威力を発揮する「畑の小さい水循環」システムです。ムダがなく他の生物の役に立ち、負の遺産を残すこともない生命デザインの見事さに、ただ感動するばかです。

歴史から学ぶ

 一方、自然生態系を分断・破壊する河川の人工ダムは、人類史的に見るとほんの短期間に堆砂等で寿命が尽きます。排砂には多大なエネルギーが必要になり、環境負荷が加算され、後世に多大な負の遺産を残します。
 かつて多くの古代文明が滅亡したのも、人工のダムと用水路に頼る永続性に欠けた農業デザインに起因しました。未来に責任ある者として歴史を教訓とし、自然に学んで、同じ過ちを犯さないようにしたいものです。小さい水循環に支えられた
 物は、充実した共生微生物との協働で、養分の調和がとれて健康に育ちます。食べて美味で保存性が良く、栄養価も高いようです。このような食品としての質の高さは、給水コストを抑えると共に農業経済に貢献し、自然環境にも優しいのです。生命デザインによるミクロの根跡ダムを認知し活かす小さい水循環農業は脱工業化の道に通じます。不耕起草生栽培を基本とする畑の小さい水循環は、永続的に力量を発揮する持続可能な社会を支える農ダムの必要条件を満たしているといえます。

不耕起農法
不耕起の効果

 福津農園では畑作に耕耘機を使わなくなって20年余になります。急傾斜地で耕起のデメリットが目立ったことと、超多忙になったこともあって耕やさなくなりました。耕さなくなってみて予想以上にメリットが多いことに気がつきました。持続性という視点からも可能性の高い農法と考えられます。播種、発芽、成長には耕起は不要です。
 今では、山間地農業が平地の農業に伍するために、不耕起こそが合理的な農法だとも思います。不耕起で秋冬野菜を直播してみると、これが実にうま生育ち、省エネ、省時間、低コストで美味しくなるのです。
 大豆など作物の多くは地際で刈り取ります。不耕起栽培を続けると、根株は間もなく虫や微生物の餌となり消失し、残った空間が水や空気の通路になります。  
 少々激しい雨が降っても雨水は速やかにかつ大量に土壌深く浸透吸収され、農地外へ流出しません。畑は保水性が良くなり、ひでりにも水やりしなくても済むのは先に述べたとおりです。微細だけど無数の根跡多機能ダムは偉大です。

果樹栽培と不耕起連作

 光補償点の異なる作物を組み合せることで、落葉果樹はもとより常緑果樹の枝下も立体的に有効活用できます。混作によって自然災害リスクの分散軽減や単位面積当りの収益向上に役立ちます。これを立体農法と称します。
 不耕起だと樹木の根を傷つけず、太陽光を優占した果樹は、健康で病原菌抵抗力が強く、安定多収と美味につながります。
 樹種転換では、元の木を地際で切り、抜根せずに新種の苗を植えます。あとは下草刈りをしながら無施肥で育てることで、抜根作業が省け、4~5年もすると太い根も虫や微生物の餌となりボロボロになって土が柔らかく通気性、通水性が良くなり、腐植があって肥沃な表土を幼木や根の浅い野菜が有効利用します。
 地表近くに落ち葉や枯れ草が集積すると、多様な生物の共存域ができ多面的機能を発揮します。これが土つくりや病虫害防止に役立ちます。落ち葉や敷き草が土を保護し、多様な生き物が寄り集って利用し、土壌が育ちます。
 他所で堆肥にするのはエネルギーや多くの機能を無駄にします。不耕起農法では、後に続く世代にとって好適な生育環境が生まれます。多くの作物が不耕起農法で連作を続けることでできが良くなり、共生微生物も含めた土壌環境を受け継活かします。共生微生物群が年々生息量を増し、多様性とバランスが進化します。