出典:カクヨム
昔は子供にとって重要なおやつであったらしいし、最近ではシーズンにはスーパーでいい値段で売っていたりもするのだが、好き、という人にはついぞ会ったことがない。
とかく「種が多い」「食べるところが少ない」「甘さしかない」などと言われがちで、それほどまでの価値はない、とする人が多いのである。
実際、俺自身もそう思う。あの、甘い部分に関しては。
だが、アケビは美味いのである。何故なら本当に美味いのは、あの部分ではなく、皮の部分なのだ。
実際、あんな部分が食えると知っている人は少ないし、いい色合いだからと、試しにちょっと囓ってみると強烈に苦い。
だが、実はこの皮が、料理すると絶品なのである。コレを知ったのはやはり大学寮にいる頃であった。
自然豊かなT大学。 この構内には、ため池があり、キノコが生えるだけではない。様々な木の実もまた豊富に実った。たくさん実を付けるアケビのツルは、カモが塒ねぐらにしている、とある池の畔ほとりの松の木に巻き付いていた。
野鳥を見るサークルに入っていた俺は、先輩達と共にカモを見に行った時に、双眼鏡でそれを発見したのだ。
紫色に色づいたアケビの実が目に飛び込んできた。そのあたりの木々にツルが巻き付いているらしく、ざっと見ただけでも十数個はぶら下がっている。
こんな美味そうなモンを放っておくワケにはいくまい。
アケビは地上十メートルくらいのところに多数実っていた。喜んでツルを引き寄せた俺は、その中身を見て、唖然とした。
「中身がない」
パックリ開いたアケビの実は、とっくに小鳥たちの餌になっていたのである。
まあ、記念に、ということで俺はその皮を二、三個持ち帰ったのであった。
寮に帰った俺は、ハタケシメジの時に購入した山菜とキノコの本で、アケビの項を確認することにした。
すると、何々……ほほう、アケビもミツバアケビも扱いは同じで良い。ムベなんて常緑の種類もある……なんと新芽も食えるのか。……って……何いい!? 油炒めだってえ!?
まず、挽肉を炒めて味噌で味を付ける。ここにきざんだマイタケを投入して混ぜ合わせ、これをアケビの皮に詰め、そのままギョーザのように焼き上げるのだ。
特に香りや旨味があるわけではないのだが、歯触りとほのかな苦み。そこにマイタケの香りと挽肉の旨味が重なって、それはもう、えもいわれぬ美味であった。
後日、一人このアケビ料理で夕飯を食っていたところ、友人が訪ねてきた。
当然ながら、俺の食べている得体の知れない料理に興味を示した友人は、味見をしたのであるが「苦にっが~い!!」と叫んで、二度と口にしようとはしなかったのである。
俺にとっては、ほのかな苦みが絶妙な、まことに美味な食材だったのだが、彼にとっては耐え難い苦みだったようだ。
幸いなことに、この詰め物の「挽肉とマイタケの味噌炒め」は、アケビの皮抜きでも、そのままご飯のおかずに最適だし、ナスやピーマンに詰めても美味い。
だから、一度にどっさり採ってきて料理するのではなく、とりあえず一個採ってきて料理してみて、口に合えばその後はどっさり採ってくればよい。
そしてもし、耐え難い苦みであったなら、アケビの皮以外はご飯のおかずにして食ってしまえばよいのである。