【サンショウ】の苗木づくりに挑戦 成功率95%!

出典:現代農業

 

 いま国産サンショウが食品業界から熱視線を浴びています。空いた畑にサンショウを植えてひと稼ぎしたいところですが、その栽培はなかなか難しいようです。とくに重要なのは苗木づくりで、その肝は「接ぎ木」です。


 和歌山県有田郡旧清水町(現有田川町)はブドウサンショウ(Zanthoxylum piperitum L)の生産量日本一の産地である。サンショウの中でも特に房が大きくブドウのように実ることから「ブドウサンショウ」と呼ばれている。ブドウサンショウは植物学的にはミカン科サンショウ属に分類され、学名のZanthoxylum(ザンショキシラム)は黄色い、piperitum(ピペリタム)は辛みのある、という意味で名付けられている。

 ブドウサンショウはミカン科の中でも珍しく落葉するうえに、雌雄異株の樹木である。従って栽培においては、果実を実らせる雌株と花粉供給のための雄株を園地に植栽して実りを充実させている。


  一般的に果樹は栄養繁殖が主流である。その中でも接ぎ木は、結果年齢を短縮できる、耐寒・耐水・耐干・耐病虫害などの強い台木を使用できる、短期間で品種更新ができるなどのメリットがある。

 ブドウサンショウの生産においても接ぎ木による苗木づくりが重要とされている。いっぽうで生産地では高齢化や過疎化により生産者が減少しており、苗木づくりの技術の継承が急務である。しかも最近、ベテラン生産者から「接ぎ木がなかなか成功しない」との声を聞いた。そこで苗木づくりの成功率アップに取り組んだ。


 まず台木選びについて。穂木との親和性から考えると、同種を台木にすることが最良であると思われる(共台〈ともだい〉)。しかし当地ではフユザンショウ、よそではイヌザンショウ、カラスザンショウなども台木に使われてきた。これは、ブドウサンショウが生育環境の適応範囲が狭いため、適応範囲の広い他の種を台木にして、どこでも栽培できるようにしたかったからと考えている。

 サンショウ4種の特徴を表に示した。ブドウサンショウは北海道~九州に生育するが、低い山地の湿り気のある林地を好むようで、やはりどこでも栽培が可能ということではないようだ。


 他3種を比べると、フユザンショウの生育地は関東地方以西~沖縄、イヌザンショウとカラスザンショウは本州~九州となっている。フユザンショウの適地は湿った暗い林内や乾燥しやすい岩場など幅が広いのに対し、イヌザンショウとカラスザンショウは山を切り開いた原野や河原など比較的乾燥する場所が多い。

 フユザンショウは環境適応能力が比較的高いので、当地では経験的にこれを台木として活用してきたと考えた。

 新たに台木を準備したい方は、栽培地に近い山林に自生するフユザンショウから種子を採取し、実生苗を用意することをおすすめする。写真のように播種後2~3年程度で台木として使用できる。


 接ぎ木の際に重要なのは「形成層を合わせること」とよく説明されるが、成功率を上げるにはもう少し説明がいると感じた。その違和感を払拭するために植物をよく観察すると、形態学的な特徴を捉えることができた。形成層は枝の芽の周辺が厚くなっているのだ。それなら台木も穂木もその厚い部分同士をきちんと接触させれば、接ぎ木の成功率が向上するのではと考えた。
 そこで、いつも研究協力いただいている(一財)大和屋の篤農家、北林利樹さんと私でそれぞれ約50本ずつを接ぎ木し、その成功率を比較してみた。北林さんにはいつもと同じように接ぎ木してもらい、私は下図のやり方に沿って形成層の厚みを意識して接ぎ木した。

 2018年3月24日に接ぎ木し、5月20日に成功率を確認。結果は、北林さんが50本中30本で60%の成功率であった。私の場合は59本中56本成功し、成功率が95%であった。北林さんに話を聞くと、枝の構造などに意識することなく接ぎ木を行なっていたそうだ。
 接ぎ木においては台木や穂木の癒合部分に形成層の厚い組織をうまく使うことが成功率を上げるポイントとなる。割り接ぎの他、芽接ぎや剥ぎ接ぎなどでも同じ点に注目して技術向上を目指していただきたい。この形態学的な視点は他の植物でも応用可能であり、形成層の厚い部位を見極めることが大事と考える。


 接ぎ木では、ナイフ、せん定バサミ、接ぎ木テープなどを使うが、これらは農協などで容易に購入できる安価なものでもいいと考える。

 ただし刃物については、新品の刃やよく研磨した切れ味の鋭いものを使っていただきたい。また、あらかじめ洗剤やアルコールなどで清潔にしてほしい。キッチンハイターを薄めた液を染み込ませたタオルなどで拭くのもおすすめ。

 作業の際はご自分の手洗いも行ない、切り口からの雑菌侵入を抑えるうえでも刃物は毎回消毒すると安心である。