大鰐温泉もやし

出典:JR

 


 800年以上前から湯治場として知られる大鰐温泉郷。この地域には、代々受け継がれてきた伝統野菜があります。それは、独特な香りとシャキシャキ感が魅力の「大鰐温泉もやし」です。

大鰐温泉もやしの歴史は350年以上!?

 大鰐温泉もやしは、長さ40cmほどの大鰐地域でしかとれないもやしで、大豆もやしとそばもやしの2種類があります。豆もやしは「小八豆(こはちまめ)」という大鰐でしかとれない在来種を、そばもやしは階上早生(はしかみわせ)という青森県で生まれた在来種を使って作られます。
 最大の特徴は、加熱しても損なわれないシャキシャキとした食感。水耕栽培のもやしに比べて、カルシウムや鉄分、ビタミンなどが豊富です。冬期でも栽培でき、栄養価の高いもやしは、古くから冬が長い津軽地域の人々にとって、たいへん貴重な野菜でした。
 大鰐温泉もやしの歴史は古く、今から約350年ほど前の江戸時代にまで遡ります。文献によると、弘前藩3代藩主 津軽信義公が大鰐を訪れた際にもやしを食べ、そのおいしさに衝撃を受け、広めたとされています。つまり、現地の住民たちはその前から当たり前に食べていたということ。一説では「800年以上の歴史があるのではないか」とも言われるほど、大変歴史のある野菜なのです。

おいしさの秘密は、温泉地ならではの栽培方法にあり

 大鰐温泉もやしは生産者の高齢化や後継者不足に伴い、一時は消滅の危機に追いやられたことも。「貴重な伝統野菜を後世にも語り継いでいかねば」と、生産者の育成に腰を上げたのが、プロジェクトおおわに事業協同組合の相馬康穫(やすのり)さんです。
 町のためにさまざまな地域プロジェクトを手がける相馬さんが、一子相伝の技術を受け継ぐ生産者と新規就農者を繋ぎ、大鰐温泉もやしの技術を次の世代へ繋げています。
 江戸時代から続くもやし農家さんがどんどん減少する中、約3年間の修行を積んだ新規就労者が次々に誕生し、現在は、江戸時代から続く1軒を含め、計6軒の農家さんが生産に取り組んでいます。
 もやしを育てる八木橋順さんのハウスを訪ねました。温泉もやしの栽培は、11月中旬から5月上旬にピークを迎えます。一般的なもやしは水耕栽培で作られますが、大鰐温泉もやしは土耕栽培。温泉熱で土を一定の温度に温めて作ります。
 八木橋さんは「もやし栽培は土作りが要」と言います。土は、温泉水やもやしの残渣を混ぜる作業を一年間繰り返して、ようやく仕上がる努力の産物。品質を一定に保つために、毎日全ての土を入れ替えているというから驚きです。八木橋さんは、「土作りは見えない菌を育てることでもあります。その日の温度や湿度によっても土の状態が変わるので、とても気の張る作業です」と教えてくれました。
 八木橋さんが大切に育てているもやしを見せてもらうと、なんともやしがピクピクと動いているではありませんか!1週間ほどで収穫できる成長スピードの早い野菜なので、成長が肉眼で見てわかるのだそう。まるで生き物のように小刻みに動く愛らしい姿に癒されました。

大鰐温泉もやしグルメを堪能するなら

 大鰐温泉もやしの歴史や栽培方法を知ると、実際に食べてみたくなるものです。大鰐温泉駅から歩いてすぐの鰐comeの中にある「お食事処 花りんご」は、大鰐温泉もやしを使った定食やラーメン、蕎麦などが楽しめます。
 なかでも人気なのが、大鰐温泉もやしうまか丼。ご飯が全く見えないほど、もやしがぎっしり敷き詰められています!もやしのシャキシャキ食感に温泉卵がとろーりと絡んで、ご飯を掻きこむ手が止まらなくなります。
 併設する産直施設「メルカート」では、大鰐温泉もやしを一束300円から購入することができます。お土産として持ち帰り、自宅で新たなもやしレシピを開発してみるのも楽しいかもしれませんね。