“放置竹林”でガッチリ稼ぐ

出典:PREGIDENT Online
 

 各地で問題となっている放置竹林を無償で伐採し、独自の方法で飼料や肥料に加工する宮崎県の企業が注目を浴びている。竹林問題が片付くだけでなく、それを食べた牛や豚は肉質が飛躍的に向上し、農作物の育ちもよくなるとの評判を聞きつけた自治体などからの視察や連携協定依頼が殺到している。

祖業は石油の地下タンク検査、今は竹で稼ぐ

 伐採後に粉砕されて間もない生竹の山に手を入れると、ほんのり温かい。もう発酵が始まっているのだ。

 「竹に含まれる乳酸菌効果ですね。パンダが笹を食べてあんなに大きく育つのにも影響しているかもしれません」

増えるのは竹ばかり

 2010年代のことだ。折しもガソリンスタンドの廃業が続き、地下タンク検査の取引先も減る一方。田中さんが地元の山を見渡しても、杉が減って、目立つのは竹ばかりだった。

 「竹か……」

 ちょうど「放置竹林」が、都城でも問題視され始めたころだった。高齢化などで地主が管理しきれなくなった山林を、繁殖力の強い竹が侵食していく。竹は浅く根を張るため、土壌をしっかりホールドせず、降水量が増えると竹林ごと地滑りを引き起こすリスクがあった。また、放置竹林は日当たりが悪く、竹が腐って倒れる危険もある。さらに竹は繊維質が多いため、伐採しようにも通常のノコギリやチェーンソーでは刃が欠けたり目詰まりを起こしたりと、とにかくやっかいな存在だった。

 竹は温暖な地域でよく育つ。林野庁の「森林資源現況総括表」によると、竹林の多くは九州にあり、宮崎の竹林面積も増え続けていた。

 そんなとき、兄で社長の浩一郎氏が耳寄り情報をキャッチした。

 県の畜産試験場が、放置竹林を伐採して飼料や肥料に加工した「竹葉(笹)サイレージ」を開発したというのだ。サイレージとは、牧草などの原料をサイロや特殊なビニールなどで密封して発酵させたもの。放置竹林であれば原料はタダ同然だし、地域の困りごとも解決できて一石二鳥に思われた。

 「うちで事業化できないかと、兄が畜産試験場に通って笹サイレージの製法を学びました。その後、竹専用の伐採用重機や粉砕機を購入し、いよいよ自分たちでやってみることになりました。ところが商品化のハードルは高く、思わぬエラーが続出したのです」

「レシピ通りにやったのに」続くトライアル&エラー

【笹サイレージの製造工程】

  1. 生竹(孟宗竹が最適)を伐採する
  2. 伐採した生竹を粉砕する
  3. 粉砕した生竹に糖蜜・乳酸菌・水を加える
  4. 攪拌(かくはん)する
  5. 圧縮する
  6. ロール状に成型する
  7. 特殊なビニールで包装し密閉する
  8. 保管して発酵させる

乳酸菌効果で牛・豚の腸内環境が改善

 しかも、笹サイレージが飼料に使われると、畜産試験場のデータ通りの効果が表れた。

 「乳酸菌効果で、牛や豚の腸内環境が改善しました。特に子牛が下痢をしなくなり、肥育がよくなったのです。肉質も、うまみ成分であるオレイン酸が増え、臭みのないおいしい肉になりました。2022年の、ロシアのウクライナ侵攻による輸入飼料価格高騰でも笹サイレージの普及が進みましたね。酪農においても、乳牛が餌を残さず食べるようになったり、乳量が増えたりしています」

 豚にも同様の効果が出た。なかでも都城の「観音池ポーク」は、笹サイレージの導入以降、2年連続で宮崎県のグランドチャンピオンに輝き、2022年には農林水産大臣賞を受賞した。さらに肉質の向上だけでなく、腸内環境の改善で栄養素の吸収率が上がり、1頭当たりの飼料が330kg→280kgに減少。会社全体で年間4000万円ものコスト削減につながった。

 飼料だけではなく、農作物の肥料としての効果も絶大だった。竹の繊維質の多さは、伐採時はやっかいだが、笹サイレージになると水はけのよさに寄与するという。空気の層ができて土壌も柔らかくなる。そこに農作物がしっかり根を張ることで栄養を吸収し、収穫量や糖度が向上した。

 「さらに、サツマイモの基腐病(もとぐされびょう)に対する予防効果も確認されました。地元企業や大学と連携した実証実験が進んでいます」