規格外の野菜をお裾分け。すると思わぬクレームが!

 
出典:マイナビ農業

 

大量の規格外品を見たご近所さんが……

 ある日、僕は出荷できないサイズのダイコンを抜いてそのまま無造作に畑に置いていた。昼頃に収穫を終え、畑でひと休みしていると、自転車に乗った女性から声を掛けられた。

「すみません、ちょっと聞いてもいいですか?」

 どうやら畑の近所に住んでいる主婦の方らしい。近くにあるスーパーの買い物袋が自転車のかごに入っているのが見えた。

「なんでしょう?」

 僕は地面に落ちたたくさんの規格外のダイコンを踏まないように避けながら、にこやかに女性に駆け寄った。地域の人とのコミュニケーションは、農家にとって欠かせない業務の一環である。

「このダイコンって、どうされるんですか?」
 女性は規格外のダイコンを指さしながら聞いてきた。

「これは出荷できないんで、そのまま廃棄しちゃいますかねぇ」と僕が答えると、
「そうなんですか、もったいない……」と女性はため息をついた。

 もちろん僕ももったいないと思っているが、規格外の野菜を販売しようとしても、労力がかかるばかりでもうけにはならない。それならば畑にすき込んだ方がましだ。世間では「フードロスの削減」なんて言っているが、規格外野菜の有効活用は、ぶっちゃけ割に合わないのが実情である。「外野は勝手なことを言うよなぁ」というのが就農した僕の本音だ。

 それでも、消費者がそう思う気持ちもわからないではない。
「もし良かったら持っていかれます?」

 僕がそう返すと、女性の顔がパッと明るくなった。

「え? いいんですか?」
「どうぞどうぞ、せっかくだから持っていってください」
「ありがとうございます。じゃあ後で取りにきますね!」

 そう言って、女性は自転車で走り去っていった。

 しばらく畑で作業をしていると、さきほどの女性が再びやってきた。買い物帰りだったので購入した食品を自宅に置き、ダイコンを入れる袋を取ってきたらしい。

「どれでももらっていいんですか?」と女性は満面の笑みで聞いてきた。
「ここにきれいに並べて置いてあるダイコンは出荷するので、それ以外であれば大丈夫ですよ!」女性の笑顔につられて、僕も思わず笑顔で答えた。

「そうですか。ありがとうございます!」

 僕は畑に落ちたダイコンを拾い集める女性をしばらく眺めていた。どうせ捨ててしまうダイコンである。せめてご近所さんから喜んでもらえたことがうれしかった。

 ただ、この時の僕は、その後の展開を全く予想できていなかったのである……。

大勢の人が畑に押し掛ける事態に!

 翌日、続きの収穫作業をしていると、夫婦と思われる見知らぬ男女が「あの、すみません。ちょっといいですか?」と声を掛けてきたので、僕は作業の手を止め夫婦のほうに歩み寄った。
「なんでしょう?」

 すると、女性のほうが少しぞんざいな口調で
「山之内さんからこの畑でダイコンをもらえたって聞いたんだけど?」と言ってきた。

「ん? 山之内さん?」
「昨日この畑に女の人が来なかった?」
「ああ、あの方ですか、そうですね。お譲りしましたけど……」
「私たちもいただいていいかしら?」
「いいですよ、どうぞ……」

 そう言いながら、僕はなんだか嫌な予感がし始めた。昨日はたまたま出くわしたご近所さんにお裾分けする感覚でOKを出したのだけれど、周りに少し違ったニュアンスで伝わっている感じがしたからだ。

 その不安は、的中した。

「ちょっと大石さん、ダイコンがもらえるらしいよ!」
 ダイコンを拾い集めていた奥さんが、畑の脇を散歩していた人に声を掛けたのだ。どうやら顔見知りらしい。

「そうなの? じゃあもらいにこないと」
 大石さんと呼ばれたその人は、うれしそうに畑に寄ってきた。

「捨てるのがたくさん出たんで困っているんだって」
 困っているとは一言も言っていないのに、勝手に話に尾ひれがついている。

「じゃあ、お友達も呼んでこようかしら?」
「そうそう、袋も持ってきた方がいいよ」

 あっけにとられている僕を尻目に、ご近所同士で盛り上がってしまっている。
 気が付いたら、10人ほどが畑に集まっていた。
 後でやって来た別の女性は「こっちもいいの?」と正規品にも手を付けようとする始末だ。
「いやいや、これは出荷するものなんでダメですよ……」と僕はあわてて正規品のダイコンの前に立った。

 大勢の人が畑にやってきて、規格外のダイコンをあさっていく。もう作業どころではなくなってしまった。僕はその光景を見ながらただ苦笑いするしかなかった……。

レベル13の獲得スキル「規格外をタダで渡すのはNG! きちんとお金をもらえ!」