リンゴのルーツ求め中央アジアへ

1 山肌がむきだしになった乾燥地帯。雑木に紛れ枝を伸ばす野生のリンゴ。ここがリンゴの古里-。県産業技術センターりんご研究所で長くリンゴの育種(品種改良)に関わった黒石市の今智之さん(54)らが今年9月、栽培リンゴの起源があるとされる中央アジアのカザフスタンなどを訪ねた。気の遠くなるような数の交配、選別などを繰り返し、目的に合った品種をつくり出す育種の世界。その源泉に触れる旅を、今さんが振り返った。

 今さんは、県りんご研究所で、貯蔵性に優れた「春明21(あおり21)」や、果肉が変色しにくい「千雪(あおり27)」などを本県の有望品種として送り出し今年3月、品種開発部長を最後に退職。現在は、板柳町産業振興公社りんごワーク研究所の指導監を務める傍ら、自身の園地で民間育種家としての活動も始めている。

 リンゴの起源には諸説あるが、日本で栽培されている品種の元となった西洋リンゴは、近年の遺伝子解析で、カザフスタン、キルギス、中国・新疆ウイグル自治区などを含む中央アジアの山地一帯に自生する「マルス・シーベルシー」が原種と考えられている。

 同品種は、黒石市のりんご研究所や板柳町ふるさとセンターの品種見本園などにも植えられており、県内でも目にすることはできるが「起源があるとされる場所に自生するリンゴの生育環境や変異の状況に興味があった。育種家には大変魅力的なところです」と今さん。

1 ルーツを訪ねる旅は、黒石市出身で東京農大客員教授の境博成さんの誘いで、知人で同市の会社社長對馬省次さんと3人で決行。青森空港から韓国ソウルに渡り、直行便で中国との国境に近いカザフスタンの最大都市アルマトイまで約6時間。さらにチャーターした車で東へ約200キロのタルガル国立公園内の自生地や、南隣のキルギスの山地などを10日間かけて回った。

 アルマトイはカザフ語で「リンゴの父」という意味がある。豊富な野生の遺伝資源を求め、世界の研究者が足を運ぶ地だ。

 一帯は半砂漠の乾燥地帯。朝晩の寒暖の差が激しい。ほとんど樹木の生えていない山々の間を、車を走らせていると、川沿いに茂る雑木に紛れるように、目的の原種に近いとみられるリンゴの木がポツポツと見えてくる。

 幹は直径50センチほど、樹高5~6メートル。日本で見られる一般的なリンゴの木に比べると、倍ほどの大きさで、枝も混み合っている。口にすると、酸味や渋みが強く「とてもおいしいと言えるものではない」と今さん。

 果実は、ピンポン球大の扁平(へんぺい)がかった黄色いものが一般的だが、赤みがかったものやソフトボール大のもあり「同じ種でも遺伝的に非常に多様さを持っている」と感じたという。

 印象的だったのは、多くの果実に黒い斑点状のカビが見られたこと。リンゴの天敵と言われる黒星病だ。「栽培品種の大半が黒星病に弱いことと、つながりがあるのかもしれない」

 冬は雪に埋もれる湿潤な本県のリンゴ産地とは対照的な生育環境。「逆にいうと本県は、リンゴにとって世界一厳しい環境で、世界一おいしいリンゴを作っている。だからこそ、人が手を加えないと良いものができない」。蓄積された高い技術あってこその本県のリンゴ産業であることを強調した。

出典:東奥web