「あっぱれ、ミツバチ」

出典:オーガニックよもやま話

 


 木々は新緑に彩られ、たくさんの花が咲き、なんとも清々しい季節だ。ミツバチが花蜜と花粉集めに忙しく飛び回っている。ミツバチたちのコロニーでは新しい家族がどんどん生まれるので、働き蜂たちは育児で大忙しなのだ。

 私たち人類よりもはるか前からミツバチはこの地球上で暮らしている。きっちりと役割分担をしながら連綿と営まれる生命共同体。その秩序正しさというか、潔さというか、感心するばかりだ。

 ミツバチは女系集団。何万匹という家族が一緒に暮らす。1匹の女王蜂と、8~9割の働き蜂、残りが雄蜂という構成だ。この三者の役割が見事に決まっているのだ。

 働き蜂は全員メス。「働き蜂」とはよくいったもので、巣づくりから巣の掃除、扇風機役となっての空調管理、育児も守衛もみんなやるオールラウンドプレーヤーだ。

 一方、雄蜂は巣の中では何の仕事もせずにぶらぶらと過ごす。何もしないどころか、食事まで働き蜂から口移しでもらうのだ。

 しかし、機が熟すと俄然やる気を出す。任務は交尾だ。女王蜂のフェロモンに誘われ毎日交尾飛行に出掛ける。

 見事思いを遂げた雄蜂は、交尾器の一部を切られて絶命。交尾できずに終わった雄蜂は、秋になって食料が減ってくると巣の外に追い出され、ひっそりと土に還っていく運命。どちらにしてもちょっと切ない。

 一方、女王蜂は次々に交尾を繰り返して精子をため込み、4年ほどの寿命が尽きるまで卵を生み続ける。「女王」と聞くと群れの頂点に君臨して全てを差配しているイメージだが、そういうわけではない。女王蜂の使命はひたすら卵を産み続けること。職人的な仕事ぶりだ。

 女王蜂はオスとメスを産み分ける。女王蜂候補には働き蜂が用意した王台と呼ばれる特別室が与えられ、ローヤルゼリーというこれまた特別食で育てられて、産卵繁殖能力を持つ女王蜂に成長する。1つの家族に女王蜂は1匹、この秩序は女王蜂が特別なフェロモンによって健在ぶりを示すことで保たれている。

 6月ごろには家族の数が3倍にもなる。巣別れの時期だ。旧女王蜂が半数ほどの子どもたちを連れて引っ越しをする。次の世代に古巣を譲り、新たな共同生活の旅に出るのだ。そして同じように卵を産んで家族を増やし、それぞれが粛々と仕事をして命を終える。働き蜂も雄蜂も、そして若者に居場所を譲り去っていく女王蜂も、立派ではないか。ミツバチの潔さを人間は見習うべきだと、つい熱くなるのは私だけだろうか?

 そのミツバチが、何年も前から世界各地で減少していて深刻な問題になっている。土地利用の変化や森林開発、農薬、気候変動など、たくさんの要因が絡み合っている。ミツバチにとって暮らしづらい世の中になった。

 ミツバチだけの問題ではない。私たちの暮らしにも密接につながっているのだ。

 ミツバチは花蜜や花粉を集める代わりに、花から花へと花粉を運んでくれる。花粉を媒介してもらうことで、植物たちは次の世代へと命をつないでいる。実った果実や種子が小動物のエサになり、それを食べるものがいてと、小さな体のミツバチが生態系の循環の下支えという大仕事をやってのけているのだ。農作物もその一つだ。世界の食糧のおよそ3分の1、全作物種数の約7割をミツバチの受粉が支えているという。ハウス栽培で活躍しているのもミツバチだ。ミツバチがいなくなっては困るのだ。

 5月20日は「世界ミツバチの日」。ミツバチをはじめとする花粉媒介者の重要性を考えようと、2018年から始まった国際デーだ。

 働き蜂たちは今日も花蜜や花粉を集めに飛んでいる。けな気でたくましいそんな姿に思う、何ができるのかちゃんと考えなければと。