みんなの知恵が詰まったわらび

出典:山あいの手しごと屋さん

3月から5月終わりにかけて、遠野宮守の里山でのびのびと育つ何種類もの山菜たち。
数週間単位で採れる山菜が変わっていきますが、「バッケ」「こごみ」「たらの芽」「しどけ」「わらび」・・・この地域の人々は、その時期にしか採れない山菜を心待ちにしています。しかし、山菜は山に生えてるとはいえ誰かの山の可能性もあり、勝手に採ると山菜泥棒になりかねません。
5月が旬の「わらび」を予約すれば誰でも採ることができます。

はじめてのわらび栽培

「今年は4月終わりに雪が降ったり、GWにはヒョウが降ったりで、その時出ていた芽はダメになってしまった…」と嘆いていました。

わらびを育てるのにも知識が必要。そこで、実際に苗を譲っていただいた山形や西和賀へ、鹿込牧野組合のメンバーで2~3年研修を行い、わらび栽培に臨んだそうなのです。
実際にわらび園に行ってみると、どこが端なのか一目ではわからないくらい広い場所。どれくらいの広さなのか佐々木さんに聞いてみると、なんと6ヘクタール!東京ドームでいえばすっぽりと収まる広さです。そんな広大な山の農地に、ひとつひとつ丁寧にわらびの苗を植えていったそう。はじめこそ肥料を撒いたけど、それ以降は広すぎて撒いてないんだとか。

春になったら山を焼く!

そんな歴史のあるわらびは、20年経った今も、当時植えた苗から新しい芽が生えて収穫することができます。水や肥料をまかなくても毎年大きく育つ理由は、ひとつは雨が定期的に降ってくれること。週に一回降ってくれるとベストなんだそう。そしてふたつ目は、春に行う「山焼き」です。山焼きとは、その字のごとく、山を焼くことです。

地域の消防や鹿込牧野組合、宮守川上流地域の方々が協力をして、6ヘクタールのわらび園に火をつけ、一度燃やしてしまいます。そうすることで、わらびの成長を促す肥料の変わりになるそうなのです。そして今では、宮守川上流地域の春の恒例行事となっています。

 

口コミだけで広まったわらび園

このわらび園は、20年ほど前からお客さまをお迎えして自由にわらびを採れる観光農園ですが、なんと口コミから広がっていった、知る人ぞ知る場所。取材した日に来ていたお客さまに聞いてみると、青森から来た方々でした。友達の友達のそのまた・・という風に紹介され、毎年仲間とここへわらびを採りに来ているそう。私が取材した日も5名以上のお客さまがわらび採りを行っていました。
そんなお客さまが、どんなわらびを採ると良いのか教えてくれました。

写真だと少しサイズ感がわかりにくいかもしれませんが、手に持っているのは30~40cmのわらび。このサイズのわらびが一番柔らかくておいしく、その中でも太いものがよりおいしいんだとか。また、先っぽの芽にあたる部分は食感も悪くあまりおいしくないから切り落としてしまうらしいのです。
私のイメージだと、例えるならアスパラの先の柔らかいところが一番おいしい部分!みたいに思っていたのでびっくりしました。

常連さんのわらびの食べかた

わらびを採りに来るお客さまは、5~10kgものわらびを採っていく方が多いそう。生で食べるときはあく抜きをすればすぐに食べることができ、天ぷらにしたり、生のままめんつゆで食べるのが一番おいしい!と教えてくれました。

しかし、わらびは足が速く、採ったら1日で悪くなってしまいます。そうなると、たくさん採ってもどうやって食べるんだろう?と思いますよね。実は、わらびは塩もみをして保存しておくと長く食べられるようになるんです。たくさん持ち帰り、塩もみ保存したあとはおひたしにしたり、油炒めにしておいしく食べていただいているそうです。

長くおいしく食べられる、昔ながらの知恵

わらびを栽培している鹿込牧野組合でも、10年ほど前から私たちの組合直営の「サンQふる郷市場」であく抜き済みの生わらびを販売し、今年もご好評をいただいています。しかしやはり長く保存はできないため、8年ほど前からはおばあちゃんが丹精込めて手で塩もみを行い、その後は天日干しをして、干しわらびもつくりはじめました。

こうすることで、より長く食べることができます。また、生のわらびはとろとろとした食感ですが、干しわらびはシャキシャキとした食感も楽しむことができます。
おいしいわらびを食べてもらいたい、というみんなの思いが詰まったわらび。ぜひ一度ご賞味ください。