Daily Archives for 月曜日, 3月 2024

食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし

出典:GIGS

 

まやかしの言葉「国産国消」

 「地産地消」という言葉が定着している。

 しかし、地産地消といっても、畜産物は輸入トウモロコシの加工品だし、うどんやラーメンも原料は輸入小麦である。地産地消というなら、米、野菜、果物しか食べられなくなる。地場産しか食べないと言うなら、食料自給率200%で都府県に農産物を輸出している北海道は、生産を大幅に縮小しなければならなくなる。

 このため、JA農協は、「国産国消」と言い出した。しかし、九州の人が、近くの韓国産よりも北海道産の農産物を食べたほうがよいというのは、次のフードマイルの主張にも反する。「世界産世界消」では、なぜだめなのだろうか?

 国産の方が安定的に供給されるはずだと言うなら、なぜJA農協は国産の米を減少させてきたのだろうか?

 小麦などは、国産の方が供給は不安定で品質も悪いうえ、値段も高い。

 フードマイルの主張もあやしいものである。食料の生産・流通は温暖化ガスの2割を占めるが、CO₂は、肥料や農薬の生産や農業機械のための燃料消費など、生産段階でおもに発生する。輸送における排出は食料の生産・流通過程で生じる排出合計の僅か4%に過ぎない。他の国の数倍も農薬を使う日本の農産物が、輸入農産物よりもCO₂排出が少ないとはいえない。ニュージーランド産の羊肉はイギリスまで1万8000キロも運ばれるのに、イギリス産の羊肉は多くの穀物飼料を必要とするため、その4倍のCO₂を排出する。

 輸送手段についても、国内でのトラックによる道路輸送は、船による輸送よりも多くのCO₂を排出する。我が国では、貨物、旅客輸送ともエネルギー節約的な鉄道や船舶から、エネルギー多消費的な自動車や飛行機へ移行している。海外から長距離輸送する方が、国内での短距離輸送よりも、CO₂を多く排出するとはいえない。フードマイルの主張は食料自給率向上を正当化する根拠にはならない。

 さらに、日本の1ヘクタールあたり農薬使用量はアメリカの8倍である。週末しか農業ができない小規模兼業農家は、雑草が生えると農薬をまいて処理してしまう手間ひまかけない農業を実施している。一般の理解と違い、規模の大きい主業農家ほど農業に多くの時間をかけられるので、環境に優しい農業を行っている。兼業農家が多数となったため、農薬の使用が増え、水田の生き物が死んでいった。これを食べていた野生のコウノトリは、1971年絶滅した。日本の農業が環境に優しいというのはウソである。

まだある農業の謎

農業には、ウソだけではなく、次のような謎がある。

“農業就業者や農家戸数が大幅に減少するのに、なぜ農協の組合員は増加し続けるのか?”

“食料自給率向上や食料安全保障を叫ぶ農政が、なぜ米の減産や水田の減少につながる減反を推進するのか?”

“農業が衰退するのに、なぜ農協は日本有数のメガバンクに成長し、繁栄するのか?”

“農業人口が減少しているのに、なぜ農協は大きな政治力を維持できるのか?”

 これらについての謎ときや冒頭のウソに対する答えを知りたい人は、私の『国民のための「食と農」の授業』(日本経済新聞出版、2022年)や『日本の農業を破壊したのは誰か』(講談社、2013年)を読んでいただきたい。農政トライアングルにとっては、都合の悪い真実である。

食料・農村・農業基本法見直しに関する筆者の最近の論考「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか」(2022年10月11日付)、「『改悪』の結末が透ける食料・農業・農村基本法見直し」(2022年10月21日付)も合わせてお読みください。