Daily Archives for 水曜日, 3月 2024

シロアリそして植物の毒

出典:JATAFF

 

-農産物の安全性-
シロアリの偏食

 熱帯地方に旅をすると、ゴム園や畑の中に大きな「蟻塚」をよく見かける。「蟻塚」とはいうが、本当はシロアリの巣である。 中には数十万~数百万のシロアリが棲んでいるらしい。

 シロアリなら我が国にもたくさんいる。最近はコンクリート建築のせいで少しは減ったが、私たちも先祖代々、散々手を焼いてきた。近縁のゴキブリ同様、 外見も好感がもてないが、それ以上に大事な家や家財を食い荒らされるからである。

 シロアリは偏食家である。彼らの食べ物は枯れ木や朽ちた木などの木質部分に限られる。木質は自然界でも、もっとも豊富な有機物だといわれる。 にかかわらず、その主成分のセルローズ・ヘミセルローズを食物にできる生き物はきわめて少ない。微生物を除くと、シロアリぐらいなものである。

 もっとも、シロアリも自分だけで木質を消化できているわけではない。腸内にべん毛虫などの微生物が共生していて、木質を分解、栄養分に代えてくれているのだそうである。

生きた植物には毒がある

 ところであの硬い木質もガリガリと噛み砕くシロアリが、生きた植物はまったく食べられない。どうやら生きた植物には毒があって、 それに対抗できる解毒システムを、彼らがもっていないということらしい。生きた植物を食べると、毒に当たって死んでしまう(?)というわけである。

 「生きた植物には毒がある」といっても、ピンとこない人も多いだろう。ところがこれこそ、植物が身につけた生きるための手段なのである。

 この地球上の陸地に植物が出現したのは、今から4億年前だといわれる。植物はそのはるかな昔から病菌の侵入を防ぎ、昆虫や草食獣から身を守る、 さまざまな工夫をしてきた。組織を硬くしたり、鋭いトゲで武装したり。中でも、〈ウルトラC〉が体内に毒を生成し、病原菌の侵入や動物に食べられないよう対抗するという手である。 タンニン・フェノールの類から、アルカロイド・青酸配糖体・サポニン・アミンまで。これがその毒の正体らしい。

 もっとも昆虫や草食獣も負けてはいない。植物を食べても毒に当たらないように、解毒システムを獲得して対抗してきた。

 毒で身を守ろうとした植物に対し、それを解毒する能力を獲得する動物。時には植物が守り勝ち、つぎには動物がこれを出し抜く。 大昔からくり広げられてきた植物と動物の〈共進化〉の歴史である。

 ところがシロアリはこの解毒システムをもっていない。他の動物では手が出ない豊富な木質資源を食料にした代りに、解毒システムを放棄した。
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